本書が刊行されたのは、今から7年以上前のことだ。しかも、主役は「オバマを狙う人々」であり、大統領に就いたトランプ氏の名前は本書のどこにも出て来ない。しかし、本書が描く「オバマを狙う人々」こそが、トランプ大統領誕生の原動力となったように見える。
2008年11月に黒人であるオバマ氏が大統領に当選した瞬間から、ある巨大な力が蓄積されつつあった。
〈「オバマ暗殺」がインターネット検索の人気ワードになり……白人優越主義という活火山のマグマが火口ぎりぎりまで充満し、不気味な暗雲が空を覆い始めたのだ」(7~8頁)
すでに投票日直前、オバマ氏は白人至上主義(優越主義)者に命を狙われていた。2008年10月22日、テネシー州で2人の白人至上主義者が逮捕された。ダニエル・コワートとポール・シュレッセルマンである。2人は黒人88人を殺害し、14人の首を切断、最終的にオバマ氏を暗殺する計画を立てていたという。コワートは、白人至上主義を唱える過激なスキンヘッド・グループ「シュプリーム・ホワイト・アライアンス」のメンバーで、シュレッセルマンはドイツ系で、ナチスに傾倒していた。
実は、白人至上主義者とは一線を画すものの、彼らに通ずるメンタリティーを持っている膨大な数のアメリカ人が存在する。「レッドネック」(赤首男)と呼ばれる男たちだ。
「アメリカの南部や地方に居を構えるレッドネックの典型的イメージは、分厚いチェックのシャツに汚いジーンズをはき、口にはタバコ、手にはバーボン。首は日焼けで真っ赤…」(46頁)、「キリスト教右派の教えの下、反リベラル、反少数民族、反環境保護、反中絶などの保守的価値観を抱いている」(52頁) 続きを読む 【書評】『オバマを狙う「白いアメリカ」』(ステファン丹沢著、祥伝社)
「米国」カテゴリーアーカイブ
スティーブ・バノン氏登場の意味─拙著『キリスト教原理主義のアメリカ』を読み返す
トランプ次期大統領がスティーブ・バノン(Steve Bannon)氏を首席戦略官・上級顧問に指名した11月13日、拙著『キリスト教原理主義のアメリカ』(亜紀書房、1997年)を読み返した。その前年1996年11月、勝利宣言していたのは、共和党候補のロバート・ドールを破って再選を果たした民主党のビル・クリントンだった。
ところが、1996年の議会選挙では共和党が多数を維持した。実は、これを受けて勝利宣言をしたもう一人の男がいた。キリスト教原理主義者と白人至上主義者の奇妙な連合に支えられたキリスト教徒連合のラルフ・リード事務局長だ。リードの勝利宣言は、「アメリカ政治を根底から揺るがす地殻変動の前兆に違いない」。そう確信して書き始めたのが、同書だ。それから20年、ついにキリスト教原理主義者と白人至上主義者の奇妙な連合に支えられたトランプが勝利した。
トランプ勝利は、日本の自立の好機には違いない。しかし、それは新たな危機の始まりになるかもしれない。
「現行憲法は改正の価値なし、ただ破棄の一途あるのみ」─平泉澄先生「國體と憲法」②
平泉澄先生は、昭和29年6月30日の講演で次のように述べている。
〈日本国を今日の混迷より救ふもの、それは何よりも先に日本の國體を明確にすることが必要であります。而して日本の國體を明確にしますためには、第一にマッカーサー憲法の破棄であります。第二には明治天皇の欽定憲法の復活であります。このことが行はれて、日本がアメリカの従属より独立し、天皇の威厳をとり戻し、天皇陛下の万歳を唱へつつ、祖国永遠の生命の中に喜んで自己一身の生命を捧げるときに、始めて日本は再び世界の大国として立ち、他国の尊敬をかち得るのであります。
憲法の改正はこれを考慮してよいと思ひます。然しながら改正といひますのは、欽定憲法に立ち戻って後の問題でありまして、マッカーサー憲法に関する限り、歴史の上よりこれを見ますならば、日本の國體の上よりこれを見るならば、改正の価値なし、ただ破棄の一途あるのみであります〉
対米自立阻止のために流れるCIAマネー
2009年6月の鳩山由紀夫政権誕生に狼狽し、安倍政権によって日本を一気に親米に巻き戻そうとしているアメリカは、かつて1956年12月の石橋湛山政権誕生に狼狽し、岸信介政権によって日本を一気に親米に巻き戻した。
対米自立勢力の台頭を防ぐことが、一貫して米国の対日政策の最重要課題である。
日本の主権回復を控えて、米国が最も懸念していたことは、日本の民族派勢力が対米自立路線を強めることだった。1949年に採択されたアメリカ国家安全保障会議(NSC)文書48-1は、「極右勢力は長期的にみてアメリカの利益にならない」と明記していた。
GHQ参謀第2部(G2)のチャールズ・ウィロビー少将が組織したキャノン機関の工作目的も、日本の政治家、右翼が対米自立の方向に進むことを阻止することにあった。活発な工作が展開されたにもかかわらず、対米自立志向は続いていた。
1956年12月首相に就いた石橋湛山は、「アメリカのいうことをハイハイきいていることは、日米両国のためによくない。アメリカと提携するが、向米一辺倒になることではない」とはっきりと語った。これに対して、在ワシントン・イギリス大使館のド・ラメア公使は、イギリス外務省極東部への秘密報告書(1956年12月31日付)で、次のように書いている。 続きを読む 対米自立阻止のために流れるCIAマネー
「パソナ、竹中平蔵への抗議街宣 訴訟に発展」
これまで竹中平蔵氏は産業競争力会議で労働移動支援助成金の増加を唱えるなど、自らが会長を務める人材派遣会社パソナの利益拡大になる発言をしてきた。
ところが、この利益誘導疑惑について、大手新聞やテレビは一切報道しなかった。こうした中で、「國の子評論社」を主宰する横山孝平氏はパソナ本社前などで抗議の街宣活動を行った。ところが、パソナ側は「街宣活動禁止仮処分命令」を東京地裁に申し立て、7月10月第一回口頭弁論が行われた。今後法廷では、竹中平蔵氏に対する批判が誹謗中傷や名誉棄損に当たるのかが争われる。この問題について、『月刊日本』8月号に「パソナ、竹中平蔵への抗議街宣 訴訟に発展」を掲載した。
中野剛志氏が指摘する「親米保守の不都合な現実」
中野剛志氏は『WiLL』8月号で「覇権国家アメリカ転落の時」と題して次のように書いている。
「現在、わが国は、集団的自衛権の行使容認を急いでいる。たしかに中国の脅威を前にしている以上、集団的自衛権を可能にすることで、日米同盟をより深化させることも必要なのかもしれない。しかし、より本質的な問題は、その日米同盟の前提であるアメリカのパワーが著しく後退していることにあるのではないか。
アメリカの弱腰ぶりは、さすがの親米保守の論者たちの目にも明らかになっている。しかし、日米同盟の効力を疑いたくない彼らは、現在のアメリカの弱腰はオバマ大統領個人、あるいは民主党政権の問題だとみなそうとする。選挙で共和党の大統領に代われば、かつてのような強いアメリカが戻ってきてくれるはずだというわけだ。
不都合な現実から目を逸らしたい気持ちは分からないでもないが、それは問題を先送りするだけの性質の悪い希望的観測に過ぎない」
消えたマレーシア航空機の真相─CIAによる遠隔操作?
マハティール元首相は、2014年5月18日のブログ(http://chedet.cc)で次のように書いた。
BOEING TECHNOLOGY – WHAT GOES UP MUST COME DOWN
May18th 2014
1. What goes up must come down. Airplanes can go up and stay up for long periods of time. But even they must come down eventually. They can land safely or they may crash. But airplanes don’t just disappear. Certainly not these days with all the powerful communication systems, radio and satellite tracking and filmless cameras which operate almost indefinitely and possess huge storage capacities.
2. I wrote about the disabling of MH370’s communication system as well as the signals for GPS. The system must have been disabled or else the ground station could have called the plane. The GPS too must have been disabled or else the flight of MH370 would have been tracked by satellites which normally provide data on all commercial flights, inclusive of data on location, kind of aircraft, flight number, departure airport and destination. But the data seems unavailable. The plane just disappeared seemingly from all screens.
3. MH370 is a Boeing 777 aircraft. It was built and equipped by Boeing. All the communications and GPS equipment must have been installed by Boeing. If they failed or have been disabled Boeing must know how it can be done. Surely Boeing would ensure that they cannot be easily disabled as they are vital to the safety and operation of the plane.
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書評 ポール・ゴードン・ローレン著『国家と人種偏見』
「ファシズム陣営と反ファシズム陣営の戦い」。戦勝国側は第二次大戦をそう性格づけてきた。このような見方は、わが国の歴史観にも浸透している。ところが、第二次大戦の原因の一つに有色人種に対する白色人種の抑圧があったことは、否定できない事実だ。つまり人種問題だ。
本書は、米モンタナ大学マンスフィールド・センター所長を務めたポール・ゴードン・ローレン氏のPower and Prejudice : The Politics and Diplomacy of Discrimination(『国権と偏見─人種差別の政治と外交』)を大蔵雄之助氏が翻訳したものである。脚注部分抜きで428頁にも上る大著だ。 続きを読む 書評 ポール・ゴードン・ローレン著『国家と人種偏見』
書評 高橋史朗著『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』
大東亜戦争終結後、わが国が二度と立ち上がれないようにするためにアメリカが行った占領政策ほど徹底したものはない。今日に至る日本人の精神的荒廃も、この占領政策に源を発している。
占領政策によって、日本は自分の目を失い、占領軍によって与えられた目で物事を見、判断するようになってしまったのである。それを著者は「義眼をはめ込まれた」と表現する。
占領軍は「ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム」(日本人に戦争犯罪の意識を刷り込む情報宣伝計画)の一環として、徹底した検閲を行った。事前検閲だけではなく事後検閲があった。
事後検閲とは、出版物などを発行した後で占領軍からクレームがつけられることだ。事後検閲を受けると、印刷した新聞も雑誌も、即座に反故にしなければならない。そうならないように、占領軍からクレームがつけられそうな内容・表現をあらかじめ修正するようになる。これが「自己検閲」だ。 続きを読む 書評 高橋史朗著『日本が二度と立ち上がれないようにアメリカが占領期に行ったこと』
日米安保条約の空洞化─田久保忠衛氏の危機感
安倍首相の靖国参拝以来の日米間の緊張について、多くの親米派が沈黙を守っているように見える。そうした中で、田久保忠衛氏の「アメリカの変節がもたらす衝撃事態に備えよ」(『正論』平成26年4月号)には、日米関係の行方についての切実な危機感が示されている。田久保氏は次の書いているのだ。
〈ウィーク・ジャパン派の存在、オバマ政権の性格、世論の動向、財政収支悪化がもたらしている軍事費へのシワ寄せなどの要素がからみ、米指導力の低下を生んでいる。米国力の衰退ではないが、小規模あるいは中規模の孤立主義傾向はすでに始まっているのかもしれない。米中間に事実上始まっている「新型大国間関係」は「G2」でいこうと合意なのか、あるいは「協商関係」なのか。いずれにしても国際秩序は新しい展開を見せ、首相の靖国参拝だけでなく、憲法改正にも米国が介入して来る事態にならないともかぎらないと私は懸念している。取り越し苦労かも知れないが、日米安保条約の空洞化が徐々に始まらなければいいのだが、私は深刻に受け止めている〉