人間も宇宙の一部
文明間の対話とも、普遍的な人権思想とも矛盾しないような、儒教思想の確立を目指しているのが、ハーバード大学教授の杜維明氏である。 彼は、宗教思想が担うべき役割の重大さを十分に認識している。2005年4月に「宗教―相克と平和」をテーマとして開催された「国際宗教学宗教史会議第19回世界大会」(日本学術会議など主催)の公開シンポジウム「宗教と文明間の対話」で、彼は「現代は〈第2の軸の時代〉を迎えているのかもしれない」と指摘している。ソクラテスや孔子、ブッダなどを生み人類の精神史に決定的な足跡を残した紀元前8~2世紀頃を、ドイツの哲学者カール・ヤスパースは「軸の時代」と位置づけたが、杜氏は現代はブッダや孔子に匹敵するほどの深い知恵を必要としていると指摘しようとしたのであろう(『読売新聞』2005年4月7日付夕刊)。 |
1940年に雲南省昆明市で生まれた杜氏は、ハーバード大学の燕京(Yenching)研究所の奨学金を受けてアメリカに留学し、1968年に哲学博士の学位を取得している。プリンストン、カリフォルニア大学バークレー校で教鞭をとり、1981年にハーバード大学中国史・哲学教授に就いた。彼は、普遍的思想としての儒教思想を世界に発信してきた。 杜氏は、責任と結びついた権利の在り方を次のように唱えている。
「社会とは信頼の共同体である。権利は責任と結びついている。秩序の平和が必要である。自然、天との調和が重要である」、「権利を尊重し責任を実行することは人間の尊厳の証なので、個人の権利と責任は、人間の成長のあらゆる分野で不可分の関係にある」(Tu Weiming,”Joining east and west”,Harvard International Review Summer 1998,p.44-49.)。彼の儒教思想の根底にあるのは、宇宙の秩序なのではなかろうか。彼は、「人間性の完全な意味は、人間中心ではなく人間も宇宙の一部と考えることなのである」と語っている。
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「杜維明の思想」への1件のフィードバック