世界を破壊する「モンロー主義二・〇」と「ヤルタ二・〇」

『維新と興亜』令和七年四月号の巻頭言を紹介する。
『維新と興亜』令和七年四月号巻頭言

 トランプ政権がバイデン前政権の多様性・公平性・包括性(DEI)重視の政策や、比較的寛容だった移民政策を転換しようとしていることを肯定的に評価する日本の保守派は少なくない。「リベラル対保守」という座標軸だけを重視する限り、トランプ政権のアメリカ第一主義には肯定的な側面も見い出せる。
 しかし、トランプ大統領の外交戦略と手法には重大な問題点が潜んでおり、世界の無秩序をもたらす危険性をはらんでいる。トランプ外交の問題点の一つは、新モンロー主義に傾斜する可能性だ。第五代大統領ジェームズ・モンローが唱えたモンロー主義は孤立主義と理解されることがあるが、その本質はアメリカがアメリカ大陸を独占することだろう。モンロー主義は「⻄半球勢⼒圏宣⾔」と言ってもいい。事実、セオドア・ルーズヴェルト⼤統領は、モンロー宣⾔を拡⼤解釈して、ラテン・アメリカへ介入した。いわゆる「棍棒外交」である。
 そして今、トランプ大統領はデンマークに対してグリーンランドをアメリカに売却するよう圧力をかけ、「パナマ運河はまもなくアメリカの所有物になる」などと発言している。さらに、メキシコ湾をアメリカ湾に名称変更すると宣言し、カナダをアメリカの五十一番目の州にするとまで述べている。
 もちろん、トランプ政権のラテン・アメリカ政策は、この地域でプレゼンスを拡大する中国に対する戦略とも密接にかかわっているが、アメリカ大陸をアメリカが独占するという新モンロー主義に基づいている可能性もある。実際、マイク・ウォルツ大統領補佐官は、トランプ外交を「モンロー主義二・〇」と呼んでいる。
 トランプ外交のもう一つの問題点は、露骨な大国主義外交だ。トランプ大統領には大国間の取り引きで国際秩序を仕切るという発想が顕著だ。大国間取り引きの典型的な事例が、八十年前に米英ソ三首脳がヤルタ会談を開き、大戦後の国際秩序を決めたことだ。小国の意向を無視した大国同士の野合にほかならない。そして今、トランプ外交は「新ヤルタ体制」「ヤルタ二・〇」と揶揄されるようになっている。トランプ大統領が進めるウクライナ和平は、米ロの野合になりかねない。
 日本の「保守派」はトランプ政権の対中強硬路線に目を奪われているが、「ヤルタ二・〇」の帰結として、米ロ中三国による世界分割に向かう可能性も否定できない。『ウォールストリート・ジャーナル』が、「トランプ氏は、アメリカは南北米大陸、ロシアは欧州大陸、中国は太平洋地域を、それぞれの勢力圏にすることを夢想か」と懸念するのも、理由のないことではない。成均館大学のチャ・テソ教授も次のように述べている。
 〈トランプが作りたがっている究極の世の中は米国、ロシア、中国などの大国が各自の勢力圏を構築するというもの。十九世紀の大国間の勢力均衡(コンサート・オブ・パワー)、またはズビグネフ・ブレジンスキーの述べた「巨大なチェス盤」のような世界観だ。中国やロシアがむやみに米国に飛びかかってくることはできないようにしつつも、大国同士では交渉と取引をする関係を作りたがっている〉(『ハンギョレ新聞』一月八日付)。
 トランプ氏はディールを好むだけに、「ヤルタ二・〇」に陥る可能性は否定できないのではないか。しかも、アメリカが南北米大陸を勢力圏にするという構想は、「モンロー主義二・〇」にも合致する。
 「ヤルタ二・〇」と「モンロー主義二・〇」を視野に入れると、アメリカの北大西洋条約機構(NATO)脱退の可能性も否定できない。実際、トランプ政権はNATOの欧州連合軍最高司令官ポストを手放すことを検討しているとも伝えられている。かつての同盟関係が通用しなくなる時代が近づいているのかもしれない。我が国は、世界が無秩序化する可能性を視野に入れながら、アメリカ追従の外交からの脱却を急ぐ必要があるのではなかろうか。
(坪内隆彦)

コメントを残す