欧米中心の国際秩序が動揺している。昨今ではユーラシア主義や新中華思想など、西洋近代の国家のあり方を根底から疑う議論も出始めた。しかし、そうした議論は、既に戦前日本において出されていた。大川周明のアジア主義がそれである。大川がアジアの新秩序構想を出す背景となったのは、アジア主義に潜む万邦共栄の精神と、万教帰一の信仰であった。信仰が政治と分離されることなく、しかも文化の根源に根付いている。そして各文化圏が自文化を尊重しつつ、緩やかに連帯していく…。そんな構想があった。それを支えたのは、自己を修行して鍛えていけば聖人に到達するという発想だ。それは老荘やイスラムスーフィズムに共通する発想である。こうした発想を自覚してこそ、「天下」は平穏に治まる。巻末には大川の「新亜細亜小論」の復刊が付されている。「人類の魂の道場」たるアジア精神を、本書を以て学ぶべきであろう。