4月に予定されているオバマ大統領の来日が、国賓待遇ではなく、宮中晩餐会も行われない方向であることが、1月20日、JNNの取材で明らかになった。安倍総理の靖国参拝の影響か。
『月刊日本』2月号(1月22日発売)のインタビュー記事で内田樹氏は次のように語っている。
〈── アメリカの制止を無視して靖国に参拝した安倍首相は、これまでの路線を変えたということですか。
内田 安倍首相の変化に注目すべきです。昨年、安倍首相はアメリカの指示で村山談話見直しを撤回しました。それは安倍氏には極めて不本意なことでした。だが、今や安倍首相は全能感の中にあるようです。現在の安倍氏と、昨年5月の安倍氏は全くの別人です。
年末の靖国参拝は、「そちらの要請は受け入れたのだから、あとは好きなようにやらせてもらうぜ」という意志表示だと見るべきです。参拝の直前に、沖縄の仲井真弘多知事は唐突に、普天間基地移設に向けた名護市辺野古沿岸部の埋め立てにゴーサインを出しました。県内の支持を失う覚悟で知事は決断したわけですから、そうとう強圧的な手段を使って知事を動かしたのだと思います。とにかくこの「手みやげ」をアメリカに与えておいて、いわばバーターとしてアメリカのいやがる靖国参拝を強行した。
── アメリカは、「近隣諸国との緊張を高めるような行動をとったことに失望した」と述べました。こうしたアメリカのリアクションを安倍首相は予測していたのでしょうか。
内田 アメリカのリアクションは織り込みずみだったと思います。アメリカは安倍首相に靖国に行かないでほしいという意向を伝えていました。それを安倍首相は無視して参拝した。
いま、アメリカは安倍政権に対する評価を変えるべきかどうか観察しているところだと思います。「日本の総理がアメリカの言うことを聞かなくなって、暴走を始めた」という危機感を持っている人もホワイトハウスにはすでにいると思いますし、「いや、強く一喝すれば、また腰砕けになるから、大丈夫だ」と高をくくっている人もいると思います。
ただ安倍首相がアメリカからの要請には最小限対応するが、中韓については自分たちのやりたいように外交を展開したいというはっきりとした意思表示をしたということは理解していると思います。「軍略上はつねにアメリカに協力するが、その代償として、対アジア外交についてはフリーハンドを頂きたい」と。「中国、韓国との関係についてはいちいち口出ししないでくれ」と。つまり、軍事と外交を切り離そうとしているのです。
── アメリカはそのような安倍政権にどう対応するのでしょうか。
内田 ホワイトハウスでは「安倍は危険だ」と見る人が増えていると思います。内閣のスタッフを見ても、官邸のスタッフを見ても、首相の周囲に首相の暴走にブレーキをかける役の人がいない。仮にもし尖閣で軍事的衝突が起こった場合、安倍首相はこれを制御できないのではないかとホワイトハウスは強い懸念を持っていると思います。
実際に日中が戦闘状態に入った場合、在日米軍は日米安保条約第5条によって出動を要請されることになります。しかし、アメリカは中国と戦争する気はまったくありません。だから、日本政府からの出動要請に対して、「尖閣を日本が実効支配していることは認めるが、領有権については日中どちらの立場にも与していない」と答える可能性が高い。
日本領土ではないところでの戦闘であれば、日米安保条約の発動要件を満たさない。アメリカは尖閣は5条の適用範囲であると言っていますが、あれはせいぜい「5条を適用するかどうか熟慮する」という程度のことだと受け止めた方がいい。
いずれにしてもアメリカ世論は東シナ海で同盟国が始めたトラブルでアメリカの青年が死ぬことをまったく望んでいませんから、米軍の動員には議会から強い反対があるでしょう。ホワイトハウスが議会と国内メディアの猛反対を振り切って中国との戦争に踏み切るという可能性はほとんどありません。
このとき、日本国内の世論は一気に「反米」に振れるでしょう。「日米安保条約は空文だったのか、何のために69年間も我々は米軍に無駄飯を食わせてきたのだ」ということになる。そして、安保条約即時破棄、米軍基地即時撤去という大衆的世論は押しとどめることができない勢いを得るでしょう。当然、こうなれば徴兵制だ、自主核武装だ、ということを言い出す極右政治家が勢いを増すことになり、軽はずみなメディアもそれに同調する。戦後ずっと頭から日本を押さえつけてきたアメリカに対する憎しみと、謝罪を要求し続ける中国韓国に対する恨みが一気に「出口」を見いだすわけですから、日本の国内世論は想像以上の過熱ぶりを示すことでしょう。
アメリカはこのとき150年かかって作り上げて来た西太平洋の「橋頭堡」を失うわけですから、このような事態の到来を何よりも恐れています。ですから、日中衝突が絶対に起きないようにするためには、安倍首相をできるだけ早くひきずり下す方が安全だという判断に傾いているはずです。アメリカがゴーサインを出したら、グローバリストと霞ヶ関とメディアは一斉にそちらになびきますから、そのときには安倍政権は一気に崩壊する可能性があります〉