佐藤清勝『世界に比類なき天皇政治』(昭和十八年六月)読書ノート⑩[完]

佐藤清勝は、現代政治(明治維新以降。執筆は昭和十八年)は天皇政治であると主張した。彼がそう主張した第一の根拠は、大日本帝国憲法が明治天皇の叡慮によって制定された欽定憲法だということである。そして、大日本帝国憲法は、天皇の大権、具体的には行政、司法、立法の大権、兵馬の権、宣戦講和の権、条約締結の権、文武官任免の権、栄爵賞典授与の権、大赦特赦等の権を確定したものだと説いた。
ところが、佐藤は政治の実態に強い危機感を覚えていた。彼は、現代政治は政党政治、議会政治に推移しつつあると指摘し、次のように政党、政治家に対する厳しい批判を展開したのである。
「……党利党益のみを顧みて、国利民福を念とせず、徒らに政争に没頭し、為めに議会は法律及び予算の審議協賛をなさずして、会期の大部分を政争の論難攻撃に費して居る、而して、議会に列する議員も亦、国家の利権を獲得し、国家の利益を壟断せんとし、賄賂公行、道義正に地に没せんとしつつある、斯の如きものによりて、国政を運用せんとするときは、一般の人民亦是に倣ひ、唯利益是れ追求し、道義廃頽し、人倫壊敗し、遂に、国家を挙げて救ふべからざるに至るのである、加之、議院政治、政党政治の余弊は、金権者万能を来し、為めに金権者流に好都合なる法律案のみを通過し、国家下層窮民の福祉を増進すべき法律案は却つて閑却せられ、為めに、下層の窮民をして、更に困憊せしめ、遂に、赤貧洗ふが如きものゝ多数を生ずることは、国家の慶事ではないのである……政治家は先づその倜黨の心を去つて、国家を思ふの心に復らなければならぬ、政治家は先づその私欲、権勢欲を去つて、天皇の大御心を体せねばならぬ」(三百二十頁)
この佐藤の言葉は、まさに現在の政党政治に対する批判として、そのまま適用できる。そして、彼は西洋政治学の原理的批判において、「民権全盛となってからも、政党者や金権者の恩恵なき強圧に苦しんできた」と指摘し、「民主政治の根本思想は個人主義であり、また強力主義の思想である」と説いていた。
最後に佐藤は、天皇政治の真髄は「道徳主義の政治」(道を修める心を以て国民を治める事)であり、「人情主義の政治」(子を愛する心を以て、国民を治める事)であり、「国家主義の政治」(祖宗に仕え、国民を治める心むを以て国家に奉仕する事)だと述べ、天皇政治は世界における最高至上の政治であると結論づけたのである。

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