明治維新の意義についての大川周明の考え方─伊福部隆輝『五・一五事件背後の思想』

 鳥取出身の文芸評論家・伊福部隆輝(隆彦)は、五・一五事件から2年後の昭和8年に『五・一五事件背後の思想』(明治図書出版)を刊行し、五・一五事件の背後の思想として西鄕南州、北一輝、権藤成卿、橘孝三郞、大川周明の思想を取り上げた。
伊福部は、徳川幕府に関する以下の大川の主張を引く。
〈徳川家康は国民が再び皇室の神聖を意識し始めてたるに対し、固よりこれを抑止し、又は之に背馳するやうな愚は敢てしなかつた。彼は足利将軍が皇室を無視するに反し、努めて皇室に尊崇の念を示さうとした。彼は皇室の収入を増し、宮廷を修理し、朝廷の儀式を復興し、只管その尊厳を加へることに心を用ひたのであります。
しかも家康の加へんとした尊厳は宗教的尊厳であつて、断じて政治的尊厳ではなかつた。日本の天皇は天神にして皇帝であるにもかゝわらず、家康は天皇の宗教的尊厳の方のみを高めることによつて国民の尊崇心に満足を与へつゝ、他面一切の政権を皇室より自家の掌理に収め、天皇をもつて皇帝にはあらで単なる天神たらしめたのであります〉
そして、伊福部は、〈明治維新とは実にこの徳川によつてなされた歪曲をその正しい位置「天神にして皇帝」たることに天皇をなさしめたところにある〉と大川は主張したと書いている。

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