東南アジア料理論②

魚醤

しょっつる(2日目)
若い世代の日本人には、国内に魚醤があることを知らない人もいるかもしれない。
だが、秋田の「しょっつる」(塩魚汁)、石川の「いしる」、香川の「いかなご醤油」というように、魚醤は生き残っている。
魚醤は東南アジアから日本に伝わったが、室町時代には大豆から醤油が作られるようになった。それでも、戦後間もないころまで、かなりの量の魚醤が作られていたのである。醤油の拡大によって魚醤がごく限られた地域で、限られた量しか消費されなくなったのは、戦後のことだ。 
さて、「しょっつる」製造にはアジ、イワシ、コウナゴなどが使われることもあるが、最高の「しょっつる」というと、ハタハタを使ったものだ。魚と塩を交互に重ねて重しをかけて一年以上熟成させ、上澄液をとったものが、「しょっつる」である。
「いしる」(「いしり」ともいう)は、奥能登の輪島市とその周辺の町に古くから伝わる魚醤である。こちらは、イカあるいはイワシが原料になる。イカの場合には、普通の醤油とほとんど変わらぬ見かけだが、イワシの場合にはずっと薄い色合いで透明だ。通常、能登の外浦ではイワシを、内浦ではイカの内臓を使う。「いしる」は、「しょっつる」、「いかなご醤油」、「ナムプラー」などの魚醤よりアミノ酸濃度が濃いという。
一九八九年には、山形県酒田市の沖合にある飛島で、「いしる」と同様イカの内臓から魚醤が作られていることが確認された。これをきっかけに、酒田市は魚醤への関心を強め、酒田港開港五〇〇周年にあたる一九九二年には、醤油メーカーや食品加工業者の協力を得て、「魚醤文化フォーラム」を開催している。

 有名な「しょっつる鍋」や、昆布、煮干しのダシ汁に「しょっつる」を入れ、ハタハタなど白身の魚を季節の野菜と煮込んだ「しょっつる貝焼き(かやき)」は秋田の冬の風物詩として健在である。「いしる」をつかった料理としては、「しょっつる」と同様「いしるの貝焼き」が有名である。

秋田うまいもの情報より

それぞれの地域の魚醤製造の伝統は辛うじて守られてきたが、近年継承の危機も指摘されている。「しょっつる」については、メーカーが減少する一方、熟練者が減って伝統的な製法が継承されない懸念が出てきている。市販の「しょっつる」に対し、地元の古老から「昔の味と違う」と指摘するようなことも起るようになった。
こうした中で一九九六年一月、秋田県は総合食品研究所を通じ、「しょっつる」の伝統製法を確立する研究に着手した。これまで熟練者の勘で製造してきた「しょっつる」の製法を科学的に確立するのが目標である。同時に、製造期間を短縮する新技術の研究、減塩志向の高まりに対応して、塩分を抑えて風味を出す研究も手がける。
九六年十一月には最初の研究結果をまとまっている。「しょっつる」の市販品二十九点、自家醸造品六点について成分分析した結果、うまみの素(もと)となるアミノ酸ではグルタミン酸含有が多く、リジン、アラニンの含有も多いことがわかった。最新のテクノロジーを駆使して、伝統の継承を目指しているわけだ。

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