東南アジア料理論③

魚醤
バゴオン(3日目)

 フィリピンには、カボチャ、オクラ、ニガウリ、ナスなどを使った独特の野菜炒め、ピナクベットがある。この味付けに欠かせないものが、バゴオン(Bagoong)という小魚やアミの塩辛だ。
魚やアミに大量の塩をまぶして貯蔵すると、魚の内臓の酵素で自家消化する。それをペースト状にしたのが塩辛である。前述した魚醤(油)は、この塩辛から染み出した液というわけである。

http://www.tribo.org/vegetables/bagoong.htmlより

塩辛には、好き嫌いがあるが、一度好きになるとその旨みがたまらなくなる。魚醤・塩辛の旨みの主成分は、グルタミン酸である。魚体に含まれる酵素の作用で魚肉のタンパク質が分解し、アミノ酸が生成されるのである。
現在の日本では、酒のつまみとして食べられるのが普通だが、フィリピンのみならず、東南アジアでは幅広い用途に塩辛が使われている。東南アジアが「塩辛文化圏」と言われる所以だ。
むろん、かつては日本でも塩辛が飯のおかずにされていた。調味料として塩辛を使うこともあった。江戸時代には、塩辛をすりつぶしたものを汁にいれて、味噌の代わりにした。


イロカノ地方のBagoong isda
 いまも、フィリピンのルソン島のイロカノ族は、バゴオンなしには生きられないとさえいわれる。イロカノ地方では、とにかく小魚のバゴオン(Bagoong isda)が欠かせない。もちろん、アミのバゴオン(Bagoong alamang)も皆が好んで食べる。マニラなどの大都市では、逆にアミのバゴオンの人気が高い。ピナクベットにはどちらのバゴオンも用いられるが、イロカノ地方では小魚のバゴオンを、マニラではアミのバゴオンを用いるのが普通だ。

バゴオンの用途は大変広く、そのままご飯と一緒に食べることもできるし、みじん切りにしたトマトやタマネギと一緒にココナツ油でいためてもいい。フィリピン人は、グリーン・マンゴといっしょに食べるのが格別という。マンゴのすっぱさとバゴオンの塩辛さと絡み合い刺激的な味わいとなる。
ミャンマーやカンボジアでも、塩辛は生活に欠かせない。ミャンマーの塩辛(魚)は、ンガピィと呼ばれるが、南部地方では、ご飯に混ぜてよく食べる。カンボジアではプラホック(Prahok)と呼ばれる。
アミの塩辛は、インドネシアのスマトラ島やジャワ島ではトラシ、マレーシアではブラチャン、東北タイやラオス、カンボジアなどではカピ、ベトナムではマムトムと呼ばれる。例えばマレーシアでは、サンバルを作るときにブラチャンは欠かせないし、ラクサという魚風味のスープ入り麺にもブラチャンを必ず入れる。隠し味としての塩辛の旨みがわかれば、東南アジア料理をもっと楽しむことができるはずだ。

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