欧米中心の国際秩序が動揺している。昨今ではユーラシア主義や新中華思想など、西洋近代の国家のあり方を根底から疑う議論も出始めた。しかし、そうした議論は、既に戦前日本において出されていた。大川周明のアジア主義がそれである。大川がアジアの新秩序構想を出す背景となったのは、アジア主義に潜む万邦共栄の精神と、万教帰一の信仰であった。信仰が政治と分離されることなく、しかも文化の根源に根付いている。そして各文化圏が自文化を尊重しつつ、緩やかに連帯していく…。そんな構想があった。それを支えたのは、自己を修行して鍛えていけば聖人に到達するという発想だ。それは老荘やイスラムスーフィズムに共通する発想である。こうした発想を自覚してこそ、「天下」は平穏に治まる。巻末には大川の「新亜細亜小論」の復刊が付されている。「人類の魂の道場」たるアジア精神を、本書を以て学ぶべきであろう。
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『大川周明のアジア主義』レビュー(タコライス「民族固有の思想が真の姿に立ち返るとき、民族を超えた普遍性を持ちうる」)
著者は『王道アジア主義者・石原莞爾の魂』で「覇道アジア主義」に対置して「王道アジア主義」の可能性を説いたが、本書では大川周明のアジア主義に新たな可能性を見出そうとしている。
著者は大川周明の神人合一論、万教帰一論に着目し、それぞれの民族固有の思想が真の姿に立ち返るとき、民族を超えた普遍性を持ちうることを示そうとしている。
中国人には天下という固有の秩序観があり、日本人には八紘為宇という固有の秩序観がある。大川のアジア主義を支えていたのは「御宇」(ぎょう)だった。
「御宇は……古典に於ける実際の用例に徴すれば、明白に『宇宙を統御』するの意味にして、単に日本を統御するだけの意味でない。そは『天下(あめがした)知らす』と訓み、常に外国に対する宣命に用ひられ、国内的に用ひらるる『大八州国知らす天皇』と相対して居る。……外国使臣に対する詔書には『明神御宇(あきつかみとあめがしたしらす)日本天皇詔旨』又は『明神御宇天皇詔旨』とすべしと定められたる所以である」
筆者は、中国の「天下」、大川の「御宇」はともに民族固有の思想だが、大川の言う「大生命」(宇宙の真理)に則ろうとすれば、それは極めて普遍的な思想となると強調する。
そして、中国の思想家劉擎氏が中国固有の「天下主義」に基づきながら、「天下主義」ではなく敢えて「新世界主義」を標榜するのは、「天下主義」を普遍的なものにすることを意図しているからだと指摘し、「我が国の八紘為宇、大川の強調した『御宇』=『天下知らす』もまた、本来普遍的な考え方であるはずだ」と述べ、次のよう呼びかける。
「いまこそ日本人自身が、大川が到達したアジア主義の真髄を継承し、欧米中心の国際秩序に代わる新たな秩序構築に参画するときなのではなかろうか」