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東南アジア料理論⑮

酸味野菜

タマリンド(15日目)

カレーは、スパイスだけでなく独特の酸味に支えられている。これはタマリンド(Tamarind)の酸味によるものである。

 タマリンドというのは、熱帯原産のマメ科の常緑高木で、さやは十センチメートルから十五センチメートルに成長して、焦げ茶色に熟してくる。豆を包んでいる赤茶色のペースト状の果肉の部分に酸味があるのだ。その酸味は、レモンよりもむしろ梅干しに近い。酒石酸およびクエン酸で、消化を助け、身体の熱をとる作用もあるという。  続きを読む 東南アジア料理論⑮

東南アジア料理論⑭

スパイス

カレーの起源(14日目)

かつては、インドにはカレー粉というものはなかった。それぞれの志向に合わせて自分でスパイスを調合するのが常識だったからである。カプシカムというトウガラシの一種をはじめ、ジンジャー、ブラックペパー、コリアンダー、カルダモン、シナモン、クローブ、ターメリック、サフラン、タイム、オレンジピール、マージョラム、クミン、フェンネル、ナツメグ、クミンシード、カンゾー、ガーリック、メース、ケシの実――など。ざっと二十種類のスパイスを自分でまぜて作るのが、カレー本来の姿である。  続きを読む 東南アジア料理論⑭

東南アジア料理論⑬

スパイス
サンバル(13日目)

 「サンバルを上手に調合できれば婿探しに苦労しない」。インドネシアではそう言われている。
サンバル(SAMBAL)とは、トウガラシをベースとして特性ソースのこと。いわばタバスコ・ソースのようなもので、万能の調味料として用いられている。インドネシア風チャーハンの「ナシ・ゴレン」のベースとなるのも、このサンバルから作った「サンバル・ゴレン」である。

サンバルなどのインドネシアの調味料
(上野アメ横センター地下) 続きを読む 東南アジア料理論⑬

東南アジア料理論 ⑫

スパイス
トウガラシ(12日目)
東南アジアの市場にいくと、トウガラシの鮮やかな赤が目につく。また、どこの食卓でもトウガラシが用意されている。
だが、トウガラシの原産はメキシコとアンデス地域。スパイスの多くは東南アジア原産だが、トウガラシは別なのである。アステカ、マヤ帝国ですでに使われていたとされ、この地域にはいまもトウガラシの物語や伝説が残されている。 続きを読む 東南アジア料理論 ⑫

東南アジア料理論⑪

スパイス
スパイスの目的と歴史(11日目)
東南アジアにはスパイシーな食べ物が少なくない。ここでスパイシーというのは、単に辛いということだけでなく、文字通りスパイスをふんだんに使った料理という意味だ。
例えばインドネシアには、「ルンダン」という牛肉のココナッツ煮があるが、この料理には数種類のスパイスが欠かせない。「ソプブントット」というオックス・テールのスープには、コショウ、ショウガだけでなくナツメグ、メース、シナモン、クローブなどを用いる。 続きを読む 東南アジア料理論⑪

東南アジア料理論 ⑩

納豆
高まる「無塩発酵大豆」研究(10日目)
納豆は、昔から健康に良いといわれてきた。近年では、成人病予防やボケ防止など注目すべき効能が研究によって明らかにされている。この秘密は、納豆菌が作りだすネバネバに多く含まれるナットウキナーゼという成分にある。
心筋梗塞や脳卒中といった成人病は、血液中に必要以上にできた血栓(血液が凝固してゴミのように血管に詰まったもの)が原因。ナットウキナーゼには、その血栓を溶かす作用がある。  続きを読む 東南アジア料理論 ⑩

東南アジア料理論⑨

納豆
醗酵文化圏(9日目)
インドネシアだけでなく、東南アジアのあちこちに納豆は存在する。タイ北部には、トゥア・ナオという納豆がある。煮てやわらかくなった大豆を、大きな木の葉やバナナの葉を敷いた竹籠に入れて三日ほど置いて作る。そのままカレー風味のスープにいれて食べたり、トウガラシ粉と塩を混ぜて、バナナの葉に包んで蒸し、飯のおかずにする。薄い円盤状に成型して、天日乾燥をすると、数カ月保存することができる。これがナットウせんべいである。フィリピンにはタフレ(tahure)という納豆がある。  続きを読む 東南アジア料理論⑨

東南アジア料理論⑧

納豆
インドネシアのテンペ(8日目)
インドネシアには、チリメンジャコやラッカセイなどとともに細く切ったテンペを油で揚げたのち、香辛料などで佃煮風に炒めた「カレン・テンペ」という料理がある。 テンペというのは、大豆に糸状のテンペ菌を入れて発酵させたインドネシアの伝統的食品。ハイビスカスの葉などにいるテンペ菌の胞子を大豆にまぶし、バナナの葉に包んで、一~二日醗酵させるのだ。まさにインドネシア版納豆だ。  続きを読む 東南アジア料理論⑧

東南アジア料理論⑦

馴鮓
鮒ずしの危機(7日目)
食文化を維持するには、材料がなくては話にならない。
ところが、鮒ずしの材料ニゴロブナが、絶滅の危機に瀕している。ニゴロブナは、琵琶湖にしか生息しない魚で、体長二十―四十センチ。幅が厚いのが特徴だ。
骨が軟らかく、鮒特有の臭みが少ない。しかも、産卵期のメスは腹にぎっしり卵を抱えている。「鮒ずしにはこれ以外使えない」と、老舗専門店は口をそろえる。  続きを読む 東南アジア料理論⑦

東南アジア料理論⑥

馴鮓
日本の馴鮓(6日目)
では、馴鮓は日本にいかにして伝えられたのだろうか。
日比野光敏氏は、馴鮓は六世紀までに中国から北九州に伝えられたという。
平城京出土の木簡には、馴鮓の記録がある。一九八八年には、奈良市二条大路南一丁目の長屋王邸宅跡一帯から、十万点にのぼる木簡は相次いで発見され、奈良時代の暮らしぶりがかなり解明された。そこで、「長屋王はグルメ!」など注目された通り、当時の貴族たちが大変多彩な食生活をおくっていたがはっきりした。そのメニューの一つに、塩漬のカツオと塩味をつけた飯を交互に重ねて漬けた馴鮓もあった。  続きを読む 東南アジア料理論⑥