東南アジア料理論⑮

酸味野菜

タマリンド(15日目)

カレーは、スパイスだけでなく独特の酸味に支えられている。これはタマリンド(Tamarind)の酸味によるものである。

 タマリンドというのは、熱帯原産のマメ科の常緑高木で、さやは十センチメートルから十五センチメートルに成長して、焦げ茶色に熟してくる。豆を包んでいる赤茶色のペースト状の果肉の部分に酸味があるのだ。その酸味は、レモンよりもむしろ梅干しに近い。酒石酸およびクエン酸で、消化を助け、身体の熱をとる作用もあるという。 
この熱帯の酸味野菜は、アジア各国、南米で様々に用いられている。

Philippine Vegetable Samplerより

果肉と種子からは、清涼飲料のタマリンドシロップが作られる。フィリピンなどではキャンデーも作られる。またメキシコには、砂糖をまぶした「タマリンド・コン・アスーカル」、それに唐辛子をまぶした「タマリンド・コン・チレ」というお菓子もある。
だが、何よりスープの酸味つけにこそタマリンドの活躍の場がある。東南アジアのスープには、タマリンドが好んで用いられる。もともと、暑い東南アジアでは酸味の防腐効果が重視されてきた。塩や砂糖で防腐効果を出そうとすれば、大量に用いなくてはならないが、酸の場合には、PHを四・四以下に保つだけで有害な最近の増殖をかなり抑えることができるからだ(吉田よし子『香辛料の民族学』(中央公論社))。
ベトナムには、「カン・チュア」(canh chua)という酸味のきいたスープがあるが、多くの場合メー(タマリンド)で酸味をつける。具には、魚を入れてもいいし、エビを入れてもいい。ウナギのカン・チュアは逸品といわれる。
「朝日新聞」に紹介されたマダイと車エビを使ったカン・チュアを紹介しておこう。

マダイはうろこをとった後、内臓を取り出して水洗い。尾を切り落として頭部、腹部と三等分し、塩と調味料をすり込む。車エビはカラとすじを取る。  パイナップルは皮をはぎ、一口サイズに切り分ける。トマトも同様に切る。  サラダ油をシチューなべに入れ、魚は表面を焼いたら取り出し、パイナップルとトマトを油でいためる。水を加え、味付け後、タマリンドをスープ汁で溶く。  煮立ったら魚とエビを入れ、ヌクマムで調える。  弱火のまま、オクラ、モヤシ、トウガラシを入れ、スライスしたセロリを。  器に移したスープの上に油でいためた刻みニンニク、刻んだグエ、ノガイ、セロリの葉をのせてでき上がり。グエ、ノガイがない場合はミツバと万能ネギで代用する。

材料(五人前)
マダイ……1匹
車エビ……10匹
トマト……1個
生パイナップル……1/4
オクラ……10本
モヤシ……1袋
セロリ……1本
ニンニク……1片
グエ……1本(なければミツバ4本)
ノガイ(万能ネギ1本)
赤トウガラシ……2本
タマリンド……1かけ
ニョクマム……大さじ2
サラダ油……大さじ2.5
塩……小さじ4
砂糖……小さじ6
水……2リットル
(「朝日新聞」一九九七年十二月四日付)。

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