東南アジア料理論⑬

スパイス
サンバル(13日目)

 「サンバルを上手に調合できれば婿探しに苦労しない」。インドネシアではそう言われている。
サンバル(SAMBAL)とは、トウガラシをベースとして特性ソースのこと。いわばタバスコ・ソースのようなもので、万能の調味料として用いられている。インドネシア風チャーハンの「ナシ・ゴレン」のベースとなるのも、このサンバルから作った「サンバル・ゴレン」である。

サンバルなどのインドネシアの調味料
(上野アメ横センター地下)

サンバルの作り方は各種各様で、決まったパターンはない。通常、トウガラシをシュリンプペースト、トマト、タマネギ、ニンニクなどとともに調合することが多いようだが、森優子さんは「トウガラシ、シュリンプペースト、ライム」プラスαが基本だという(『東南アジア ガハハ料理ノート』)。
インドネシアでは、チョベックという中央部のくぼんだ大きな石皿に、刻んだ材料をのせ、ウルカンという石のすりこぎで、すりつぶして作る。台所でそれぞれの家のおばあちゃんが、それぞれの味にこだわり、ゆっくりと作りあげていく光景こそ、サンバル文化の伝統の象徴といっていいだろう。フードプロセッサーがあれば、一瞬のうちに同様のものはできるだろうが、そこには風情はない。
日本では、油で炒めて作るサンバルがよく紹介されているが、これは正確には「サンバル・ゴレン」という。また、トマトを入れて作るサンバルは「サンバル・トマト」という。そのほか、サンバル・イリス(玉ねぎとライム)、サンバル・パジャック(牛肉)、サンバル・ケチャップ(甘口醤油)などがある。
インドネシアでは、どこにいってもサンバルは見られる。ジャワ島南西部のバンドン地方には、ララパンという有名な料理がある。これは、キャベツ、キュウリ、ウリなどの生野菜にサンバルをつけるだけのもので、サンバルの味を楽しむのだ。
日本国内でも、現地に近い味を出すことはできるが、やはり現地の素材を使ったものとは異なるものになってしまう。タマネギ一つとっても、東南アジアのものと日本のものはかなり違う。東南アジアのものは小さく、固い。日本のものは大きく、水分が多くて、甘みもあるから、マイルドなサンバルができる。
最後に、サンバルの調合の例を一つあげておきたい。『新宮彰のエスニックジャンジャン』に紹介されているものである。

材料
タマネギ…小一個(みじん切り)
ニンニク…大さじ一(みじん切り)
トマト水煮缶…四〇〇g入りのもの一缶
サラダ油…大さじ三
赤トウガラシ(生)…大さじ二(みじん切り)
砂糖…大さじ一
ナムプラー…大さじ一

作り方
(一)トマトの水煮缶のフタを開け、ザルで缶汁を切って粗くつぶす。
(二)フライパンにサラダ油をしいて火にかけ、タマネギとニンニクを炒める。タマネギがしんなりしたら、赤トウガラシとトマトを入れてつぶしながら煮る。
(三)弱火でとろとろになるまで煮詰め、仕上げに砂糖とナムプラーを加える。

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