東南アジア料理論 ⑩

納豆
高まる「無塩発酵大豆」研究(10日目)
納豆は、昔から健康に良いといわれてきた。近年では、成人病予防やボケ防止など注目すべき効能が研究によって明らかにされている。この秘密は、納豆菌が作りだすネバネバに多く含まれるナットウキナーゼという成分にある。
心筋梗塞や脳卒中といった成人病は、血液中に必要以上にできた血栓(血液が凝固してゴミのように血管に詰まったもの)が原因。ナットウキナーゼには、その血栓を溶かす作用がある。 
そればかりではない。納豆のタンパク質含有量は百グラムで卵三個分、ビタミンB二は大豆の二倍含まれている。コレステロール値を下げるリノール酸、細胞の新陳代謝を高め、美肌効果があるビタミンEも含む。さらに、食物繊維も豊富だ。
だが、テンペには、日本の納豆以上の効能がある。悪性貧血症を防ぐビタミンB一二を大豆の二万六千倍も含み、また含有している油の劣化を防ぐ抗酸化性物質も多量に含むという特質があるのだ。テンペに含まれる乳酸菌が出す成分がO一五七の増殖を抑える抗菌作用を持つという研究結果もまとめられている。
こうように特別の効能を持つ納豆に世界の研究者の関心が集まるのも当然だ。  すでに、一九八五年七月には、筑波研究学園都市・研究交流センターで「アジア無塩発酵大豆会議」(国際シンポジウム)が開催されている。日本、東アジア、欧米の第一線の学者が集まり、納豆をはじめとするアジア四カ国の大豆発酵食品の特性と活用方法を微生物学、生化学、食品学、文化人類学など多くの学問領域から縦横に論じ合った。
九〇年二月には、第二回会議がインドネシアのジャカルタで開催され、十数か国が参加、日本から研究者ら約二十人が出席。茨城県金砂郷村の納豆メーカーなどの提供で、インドネシアに初めて大量の納豆を持ち込み、各国の研究者や現地の人たちに試食してもらった。
第三回会議は、一九九四年六月に秋田で開催されている。秋田県横手市には、後三年の役(一〇八三―一〇八七年)で、兵士が馬に乗せて運んでいた煮豆が、馬の体温で温められて発酵し、納豆ができたとの言い伝えが残り、「納豆発祥の地」の石碑もある。このゆかりの地、秋田に十六カ国から研究者ら約三百人が集結した。合わせて開催された「国際大豆食品フェア」には、テンペのほか、タイの豆腐、ミャンマーの納豆ふりかけ、ガーナやブータンの珍しい大豆食品が並んだ。
納豆をはじめとする無塩発酵大豆に対する関心は今後も高まるに違いない。それは、アジアの知恵が生んだ醗酵文化を近代科学の立場から評価することでもある。

★納豆に含まれる栄養分・一〇〇グラム中

( )内は豆腐
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エネルギー  二〇〇キロカロリー(五八キロカロリー)
タンパク質  一六.五グラム(五グラム)
脂質     一〇グラム(三.三グラム)
糖質     九.八グラム(一.七グラム)
繊維     二.三グラム(なし)
カルシウム  九〇ミリグラム(九〇ミリグラム)
鉄      三.三ミリグラム(一.一ミリグラム)
ナトリウム  二ミリグラム(四ミリグラム)
カリウム   六六〇ミリグラム(一四〇ミリグラム)
ビタミンA  なし(なし)
ビタミンB一 〇.〇七ミリグラム(〇.一一ミリグラム)
ビタミンB二 〇.五六ミリグラム(〇.〇四ミリグラム)
ビタミンC  なし(なし)
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※「四訂食品成分表」より。納豆にはビタミンE、Kも含有

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