トランプ政権がバイデン前政権の多様性・公平性・包括性(DEI)重視の政策や、比較的寛容だった移民政策を転換しようとしていることを肯定的に評価する日本の保守派は少なくない。「リベラル対保守」という座標軸だけを重視する限り、トランプ政権のアメリカ第一主義には肯定的な側面も見い出せる。
しかし、トランプ大統領の外交戦略と手法には重大な問題点が潜んでおり、世界の無秩序をもたらす危険性をはらんでいる。トランプ外交の問題点の一つは、新モンロー主義に傾斜する可能性だ。第五代大統領ジェームズ・モンローが唱えたモンロー主義は孤立主義と理解されることがあるが、その本質はアメリカがアメリカ大陸を独占することだろう。モンロー主義は「⻄半球勢⼒圏宣⾔」と言ってもいい。事実、セオドア・ルーズヴェルト⼤統領は、モンロー宣⾔を拡⼤解釈して、ラテン・アメリカへ介入した。いわゆる「棍棒外交」である。
そして今、トランプ大統領はデンマークに対してグリーンランドをアメリカに売却するよう圧力をかけ、「パナマ運河はまもなくアメリカの所有物になる」などと発言している。さらに、メキシコ湾をアメリカ湾に名称変更すると宣言し、カナダをアメリカの五十一番目の州にするとまで述べている。
もちろん、トランプ政権のラテン・アメリカ政策は、この地域でプレゼンスを拡大する中国に対する戦略とも密接にかかわっているが、アメリカ大陸をアメリカが独占するという新モンロー主義に基づいている可能性もある。実際、マイク・ウォルツ大統領補佐官は、トランプ外交を「モンロー主義二・〇」と呼んでいる。
トランプ外交のもう一つの問題点は、露骨な大国主義外交だ。トランプ大統領には大国間の取り引きで国際秩序を仕切るという発想が顕著だ。大国間取り引きの典型的な事例が、八十年前に米英ソ三首脳がヤルタ会談を開き、大戦後の国際秩序を決めたことだ。小国の意向を無視した大国同士の野合にほかならない。そして今、トランプ外交は「新ヤルタ体制」「ヤルタ二・〇」と揶揄されるようになっている。トランプ大統領が進めるウクライナ和平は、米ロの野合になりかねない。
日本の「保守派」はトランプ政権の対中強硬路線に目を奪われているが、「ヤルタ二・〇」の帰結として、米ロ中三国による世界分割に向かう可能性も否定できない。『ウォールストリート・ジャーナル』が、「トランプ氏は、アメリカは南北米大陸、ロシアは欧州大陸、中国は太平洋地域を、それぞれの勢力圏にすることを夢想か」と懸念するのも、理由のないことではない。成均館大学のチャ・テソ教授も次のように述べている。
〈トランプが作りたがっている究極の世の中は米国、ロシア、中国などの大国が各自の勢力圏を構築するというもの。十九世紀の大国間の勢力均衡(コンサート・オブ・パワー)、またはズビグネフ・ブレジンスキーの述べた「巨大なチェス盤」のような世界観だ。中国やロシアがむやみに米国に飛びかかってくることはできないようにしつつも、大国同士では交渉と取引をする関係を作りたがっている〉(『ハンギョレ新聞』一月八日付)。
トランプ氏はディールを好むだけに、「ヤルタ二・〇」に陥る可能性は否定できないのではないか。しかも、アメリカが南北米大陸を勢力圏にするという構想は、「モンロー主義二・〇」にも合致する。
「ヤルタ二・〇」と「モンロー主義二・〇」を視野に入れると、アメリカの北大西洋条約機構(NATO)脱退の可能性も否定できない。実際、トランプ政権はNATOの欧州連合軍最高司令官ポストを手放すことを検討しているとも伝えられている。かつての同盟関係が通用しなくなる時代が近づいているのかもしれない。我が国は、世界が無秩序化する可能性を視野に入れながら、アメリカ追従の外交からの脱却を急ぐ必要があるのではなかろうか。
(坪内隆彦)
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『維新と興亜』第9号(令和3年10月28日発売)
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『維新と興亜』公式サイトでは、紙版(定価715円)が650円で、EPUB版(定価600円)が500円で購入できます(ペイパル)。
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《目 次》
★【座談会】『Hanada』『WiLL』『正論』 ネトウヨ保守雑誌の読者に問う!(山崎行太郎×金子宗德×本誌編集部)
★【特別対談】米中台のグローバリストに挟撃される日本(稲村公望×深田萌絵)
【新連載】天皇を戴く国 「天皇を戴く日本」を見抜いた三人のフランス人(西村眞悟)
アフガンの次は日本が見捨てられる?(ペマ・ギャルポ)
【巻頭言】岸田総理よ、「国民経済」の視点を取り戻せ(坪内隆彦)
【時論】眞子内親王殿下の御成婚が示す教訓(折本龍則)
【時論】グローバリストが農業を破壊する(小野耕資)
★【特集】渋沢栄一も学んだ、日本を救う思想・水戸学
何故、水戸学は「水戸学」と呼ばれるのか(山崎行太郎)
水戸学の「国体論」を継承した吉田松陰と真木和泉(折本龍則)
経済弱者に優しい水戸学─構造改革論は尊皇愛国思想に非ず(小野耕資)
等閑視されてきた橋本欣五郎の政治思想(林 雄毅)
歴史の舞台・福岡県公会堂─孫文を助けた玄洋社と宮崎滔天(浦辺 登)
令和版「高次的高天原」を展開せよ(杉本延博)
林房雄先生の思い出(玉川博己)
神祇政策の混乱と神道人の覚醒(稲 貴夫)
「大家族連帯制度」を実行する、独自の素晴らしい「モデル都市」(川瀬善業)
「草とる民」の記⑤ みくに奉仕団と勤労奉仕(小野寺崇良)
人麻呂恋物語 下(玉川可奈子)
國體護持のための真正護憲論(新無効論)④(南出喜久治)
エビデンスは直接人を癒してはくれない(福山耕治)
田中角榮とロッキード事件②(田口 仁)
【蔵書紹介】「未完の尾張学」
【書評】江崎道朗『緒方竹虎と日本のインテリジェンス』
『維新と興亜』第8号
『維新と興亜』第8号、8月28日発売!

定価715円。『維新と興亜』公式サイトでは650円で購入できます(ペイパル)。
なお、富士山マガジンサービス、BASE (ベイス) でも購入できます。
《目 次》
【特集】財閥富を誇れども 社稷を念う心なし 「経団連を討て!」
■なぜ経団連事件は起きたのか 民族派は国家の危機を察知する〝触覚〟(蜷川正大)
■右派はなぜ財界の横暴に無関心なのか 麗しき山河を守れ(針谷大輔)
■財界に甘いのは尊皇心のない証拠(小野耕資)
【日本浪曼派座談会】日本回帰・第五の波に備えて 下 アジアの道義的生活 三島由紀夫と蓮田善明(ロマノ・ヴルピッタ、金子宗德、山本直人、荒岩宏奨)
【巻頭言】ビル・ゲイツによる食の支配を許すな(坪内隆彦)
【時論】菅首相は「国家の奸物」、「天下の大罪人」(折本龍則)
【時論】「グローバリストの祭典」が示す日本終焉(小野耕資)
明治維新と神社神道 神社と神道をめぐる今日的な課題を探る(稲 貴夫)
藤田東湖と西郷南洲 ⑤ 「死を恐れない行動力」の精神(山崎行太郎)
なぜいま会沢正志斎『新論』なのか(折本龍則)
渋沢栄一の「第二維新」─大御心を拝して(坪内隆彦)
「維新」としての世界最終戦 現代に甦る石原莞爾 ② 螺旋的に進化する戦争(金子宗德)
三上卓の知られざる佐賀人脈 松尾静磨と舘林三喜男(小野耕資)
情報機関なくして自立なし 完 情報体制強化を巡る日米の思惑(福山 隆)
国民共同体経済思想の構築を(杉本延博)
三島由紀夫『英霊の聲』再読 ④(玉川博己)
いにしへのうたびと ① 人麻呂恋物語 上(玉川可奈子)
在宅医療から見えてくるもの 西洋近代文明の陥穽とその超克 ① 客観性が常に「正義の印」とは限らない(福山耕治)
尊皇愛国の経営 ② 「君が代」をきちんと歌えない日本の選手達(川瀬善業)
「草とる民」の記 ④ みくに奉仕団と勤労奉仕(小野寺崇良)
國體護持のための真正護憲論(新無効論)③(南出喜久治)
靖國論議に欠けている英霊の視線(仲原和孝)
農本生活と社稷思想(三浦夏南)
【蔵書紹介】浪曼者の翻読(山本直人)
【書評】鈴木宣弘著『農業消滅』(評者:小野耕資)
壮行会御礼(令和2年12月12日)
昨日(令和2年12月12日)、国体政治研究会代表幹事の中村信一郎先生、玉鉾書院院長の森田忠明先生、展転社前社長の藤本隆之氏、崎門学研究会代表の折本龍則氏(浦安市議会議員)らの発起により、小生の壮行会を催していただきました。誠に有難うございます。
また、大東会館を使わせていただきました福永武代表に心より感謝申し上げます。

京都産業大学名誉教授のロマノ・ヴルピッタ先生、国家基本問題研究所副理事長・弁護士の髙池勝彦先生、桃の会副代表の小田内陽太氏、日本経綸機構専務理事の堀茂氏、神社本庁元総合研究部長の稲貴夫氏、板橋区議会議員の高沢一基氏、所沢市議会議員の佐野允彦氏、『宗教問題』編集長の小川寛大氏、大アジア研究会代表の小野耕資氏のほか気鋭の若手民族派の皆様にもご参加いただきました。また、國學院大學教授の菅浩二先生をはじめ、過分の差し入れを頂戴いたしまして、誠に有難うございました。
心より御礼申し上げます。


