マハティール首相の発案
自然環境を活かした観光、「エコ・ツーリズム」を推進するマレーシアならではのレストランが、ランカウイにはある。マングローブの中に存在するタイ料理レストラン「バーンタイ」(Barn Thai)である。
熱帯・亜熱帯地域で、海水と淡水の交じり合うエリアを汽水域という。この汽水域に広く分布するヒルギ種やハマザクロなどの植物が、マングローブである。そこは魚やエビ・カニ、水鳥や小動物の豊かな生息域となっており、地球の生態系を維持する上で重要な役割を果している。またマングローブの森は、台風や洪水などから人々を守る防波堤の役割も果している。
マングローブの中にレストランを作ってしまおうという企画は、マハティール首相によって提案された。海外の湿地帯にあるレストランを訪れて、思いついたのだという。
レストランの建設を担当することになったのは、フランシス・ヨー氏が率いるマレーシアのインフラ開発企業、YTL。ランカウイでは、1991年から隔年でランカウイ国際海上&航空宇宙ショー(LIMA)が開催されているが、YTLは1993年の第2回LIMAまでにレストランを完成させようと、急ピッチで建設を進めた。こうして、レストランはなんと2カ月余りで完成、1993年12月マハティール首相出席のもと、オープン式典が挙行された(Lam Seng Fatt,”Dining in style in the forest”,New Straits Times,November 3, 1996.)。バーン・タイは、まもなくエコ・ツーリズムの模範として位置づけられるようになった(New Straits Times,November 24, 1996.)。
レストランまで450メートル
生みの親であるマハティール首相は、ランカウイでの公務を終えると関係者たちと度々ここを訪れるという。確かに店の入口には、谷村新司さんら各国著名人の写真とともに、マハティール首相の写真が何枚か掛かっていた。
バーン・タイの素晴らしさは、マングローブに囲まれた立地や雰囲気だけではない。店員のもてなしといい、料理の味といい、文句のつけどころがない。トムヤンクン、グリーンカレー、牛肉の唐辛子炒め、シーフード炒め、空心菜炒め。どれも、洗練された味であった。しかも、料金もリーズナブル。ランカウイを訪れたら、是非「バーン・タイ」に行ってみてほしい。