◇「外国人は悪」ヘイト許さない
主に在日コリアンがターゲットにされてきたヘイトスピーチは、今や中東にルーツを持つ在日クルド人にも向けられている。これに業を煮やした民族派の人たちが先月、日本人住民らとタッグを組み、「日本クルド交流連絡会」を発足させた。なぜ「右」が? 関係者に聞いた。
クルド人は「国家なき民族」だ。トルコやイラク、シリアなどで暮らしてきたが、政府の弾圧や中東の戦乱を背景に、欧州や日本に逃れた人も多い。
東京外国語大講師で「日本クルド文化協会」事務局長のワッカス・チョーラクさんによると現在、日本には2500人以上おり、このうち2000人超が川口市など埼玉県内で暮らしているという。
「状況が一変したのは昨年5月ごろです。SNSを中心に突然、私たちへの攻撃が始まったのです。外国人移民に反対する人たちが、『外国人は悪』という印象を広げるため、外交問題に発展することのない私たちを選んで攻撃対象にしたとしか思えません」(ワッカスさん)
SNSには「クルド人が危険運転をした」「トラックに過積載している」「拉致されそうになった」などといった情報が真偽不明なものも含めて拡散し、「クルド人は犯罪者」「うそつき」「出て行け」といったヘイトスピーチが吹き荒れるようになったのだ。人口約60万人の川口市に在日クルド人全員が住んでも人口比は0・4%に過ぎないが、「クルド人が自治区を作ろうとしている」といった荒唐無稽(むけい)な言説まで飛び交っている。
驚いたのは川口市の日本人住民である。その一人が保守言論誌『維新と興亜』編集長の坪内隆彦さん。
「33年住んでいますが、クルド人には良い印象しかありません。文化の違いから、時にトラブルもありますが、すべてのクルド人が悪いかのような言説に強い違和感がありました」
著名な民族派団体「一水会」代表の木村三浩さんも同じころ、クルド人への誹謗(ひぼう)中傷を耳にした。 「問題があれば、SNSで匿名で攻撃するのではなくて、どうすれば良い社会になるか、話し合えばいい。日本は古来、よそから来た人を『まれびと』として受け入れ、発展した歴史がある。その歴史を忘れてはいけない。これは日本人の心の問題です。愛国者として、ヘイトを放置するわけにはいきません」
木村さんや坪内さんらが音頭を取り、川口市でクルド人から料理などを学ぶ「クルド文化教室」を開く女性を代表世話人として、問題解決のために「連絡会」を立ち上げた、というわけだ。
ちなみにトルコ政府は昨秋、ワッカスさんらを「テロ組織支援者」と名指しした。中国が反体制的なウイグル人や香港の民主活動家を「犯罪者」として扱っていることは知られているが、在日クルド人への誹謗中傷の中には、彼らをテロと結びつけたものもある。
木村さんがまとめた。「トルコの事情を引き合いに出してクルド人を攻撃するべきではありません。それでは何の解決にもならない。まずは日本人とクルド人の相互理解を深め、さらには入管行政のあり方や法の不備の改正も働きかけることも視野に入れています」
【吉井理記】