〈木村武雄のことは、本書を読んで初めて知ったが、かつてはこのような立派な政治家がいたのかと驚くと同時に、戦前昭和にこうした「王道の原理に基づいた」アジア主義者がもっと多くいれば、あるいは敗戦という憂き目も避けられたのかも知れないと思うと、悔やまれる思いがする。
確かに、例えば当時の東条政権も、口では「八紘一宇」や「大東亜共栄圏」などの構想を語っており、表面的にはアジア主義に見えるのだが、しかし木村武雄の師である石原莞爾に言わせれば、結局「東条には思想がない」(p77)のであり、「彼らの大部の心は依然西洋覇道主義者」(p67)であった。一方、本当のアジア主義者は、「然諾を重んじ万人に親切である事」(p17)を第一義とする。
本書を読んで感じたのは、表面的なスローガンや構想は誰にでも言えるが、真の意味で「思想がある」政治家は、今も昔も少ないのかも知れない、ということだ。そうだとすれば残念なことではあるが、しかし道が無いわけではない。著者は、「我々は王道アジア主義と覇道アジア主義を峻別し、覇道アジア主義の過ちを真摯に反省し、いまなお残存する内なる覇道主義を克服する必要がある」と訴えるが、本書を通読すれば、この主張は多くの人に納得をもって迎えられることだろうと思う。〉(さちひこ氏、アマゾン・レビュー、令和4年10月19日)。
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