戦前の興亜思想台頭期には、「トゥラン主義」が盛んに提唱されていたが、戦後は封印されてしまった。コトバンクは「トゥラン主義」を次のように定義している。
「トルコ・ナショナリズムの一潮流。トゥランとは、ユーラシア大陸に広がるトルコ系諸民族の総称であり、トゥラン主義は、それら諸民族の一体性を追求しようとする立場である。そこでは、一体たるべきものの中に、マジャール、フィン、モンゴル、ツングース等、広義のウラル・アルタイ系諸言語を話す人々をも含めようとする場合もあり、トゥラン概念は大きな振幅をもっている。ツァーリズム支配を脱する目的で、19世紀後半、ロシア治下のトルコ系住民の間に生まれたトゥラン主義は、〈青年トルコ〉革命後、オスマン帝国内にもちこまれた」
昭和17年に今岡十一郎が著した『ツラン民族圏』は、結論部分で次のように指摘している。 「……元来、ヨーロッパはアジアの一半島に過ぎない。民族的にも、精神的にも、フジヤマからカールパート山脈までの間、すなはち、ユーラシアを貫く『ツランは一体である』のである。このユーラシア大陸の黒土帯をつらぬく一つの血、一つの大陸における枢軸国家群の中枢こそ、ツラン民族の郷土であり、内陸アジアであり、乾燥アジアであり、中央アジアであり、トルキスタンであるのである。… 続きを読む 今岡十一郎の「ツラン・アジアの道義的文化圏建設」構想
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「日本海側からの興亜思想 明日のアジア望見 第82回」『月刊マレーシア』509号、2010年5月16日
北海道大学教授の松浦正孝氏による千頁を超える大著『「大東亜戦争」はなぜ起きたのか』(名古屋大学出版会)は、戦後の日本企業による海外での大規模な開発プロジェクトは、海外進出型のアジア主義の姿を変えた再現であるとし、戦後、東南アジア開発基金構想を唱えた中谷武世らや、土木事業コンサルタント会社日本工営を設立し、アジア各国の水力発電所建設を手掛けた久保田豊らを具体的事例として挙げている。
一方、松浦氏は内需拡大型の公共事業にもアジア主義の継承を見出し、農村への工場誘致を含む田中角栄の大規模な国内公共土木工事は、歴史的に見れば石原莞爾の発想を引き継いだものだと指摘した(同書、八百五十四頁)。
民族協和の理想に基づいた東亜連盟を目指した石原莞爾は、「都市解体、農工一体、簡素生活」の三原則により、人類次代文化に先駆する新建設を断行すべきだと強調していた。 続きを読む 「日本海側からの興亜思想 明日のアジア望見 第82回」『月刊マレーシア』509号、2010年5月16日
トゥラニズム関連文献
書籍
著者 | 画像 | 書名 | 出版社 | 出版年 | 備考 |
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イ・ヨンスク | 「ことば」という幻影 | 明石書店 | 2009年1月 | 第5章「『狭義の日本人』と『広義の日本人』─山路愛山『日本人民史』をめぐって」で愛山のトゥラニズムに言及 | |
海野弘 | 陰謀と幻想の大アジア | 平凡社 | 2005年9月 | 第2章「ウラル・アルタイ民族」でトゥラニズムに言及 | |
太田 龍 | 縄文日本文明一万五千年史序論 | 日本文芸社 | 1995年3月 | ||
山路愛山著 山路平四郎校注 | 基督教評論・日本人民史 | 岩波書店 | 1966 | 『日本人民史』で「チュラニアン」(トゥラン)に言及。 続きを読む トゥラニズム関連文献 |