「未曾有の国難に直面した現在、義を貫き、己を捨てて公に尽くす西郷南洲や副島種臣のような大人物がわが国を指導していたならば、と思わず考えてしまう」(本書「はじめに」より)
著者の坪内隆彦氏は日本経済新聞社勤務ののちフリーランスの評論家として数多くの著書を執筆、出版している。現在、『月刊日本』の編集長である。
坪内氏はこう書いている。
《本書は、現在の指導者に対する批判の書であり、真の指導者待望の書である。 私利私欲を優先させ、長いものに巻かれ、行動する勇気を持たない、国家の理想を描かず、愛国心を持たず、ただ強い国に阿(おもね)る。そのような政治家や言論人は、決して本物の日本人ではない。》
本書で取り上げた人物の西郷南洲、副島種臣、大井憲太郎、樽井茂吉、杉浦重剛、頭山満、岩崎行親、植木枝盛、福本日南、陸羯南、荒尾精、松村介石、来島恒喜、岡倉天心、近衛篤麿、今泉定助、杉山茂丸、権藤成卿、宮崎滔天、内田良平らは肇国(ちょうこく)の理想を実現しようとした先駆者である。
これら肇国の理想の実現をめざした人々の「壮絶な生涯を通じ、本来の日本人の生き様が再認識され、そのような真の日本人によって再びわが国が指導される日が来ることを願って」実力ある歴史作家の坪田隆彦が書いたのが本書である。
本書を読了して感ずることは、第一に著者の坪田隆彦氏のすさまじいばかりの憂国の情と日本をよくしたいという情熱である。日本を世界の規範となるような道義国家にしたいという激しい情熱が迸っている。同時に、本質を見抜く旺盛な洞察力が著者に備わっている。
さらに、著者・坪内隆彦氏には独創性が備わっている。大変すぐれた力のある歴史作家の登場である。
西郷南洲について坪内氏は次のように評価している。
《(西郷)南洲は、西欧列強のアジア進出を食い止めようとはしたが、自らが列強の覇権主義に陥ることを避けようとしたのではなかろうか。欧米型の近代化日本を乗り越えようとしていたのではないか。》
ここにも坪内氏のすぐれた分析力とともに旺盛な独創力が示されている。今後の坪内氏の著作活動に期待したい。
(森田実の言わねばならぬ【912】2011年11月9日(その2))