●四元義隆「民衆と天皇との間に何物をも挟んではいかん」
〈『自治民範』などにも出て来ますが、社稷ということであります。何時か先生は社稷というのは、あれは土と穀物ということだから、民衆の此の生活する事実、是が社稷で是が最も大事なことである。いろいろ大義名分などということがあるが、人間が食うということ、此の衣食住という大事なことを忘れて仕舞う為に何時も国家を誤るのだということを言われました。実際の人間が食って行くことを忘れて神様の様に思うことはいかんことで、民衆の生活事実ということは最も大事なことだと思います。歴史を見ても我々はいろんな歴史を教わりましたが、民衆の生活事実が、何うであったかということは一つも教わりませぬ。是れではいかんことです。夫れが日本の神武天皇から伝わった処の本当の伝統で、民衆と天皇、皇室との間に何物をも挟んではいかんのであります。其の中間に何か挟まるから何時も誤るのであります。夫れでずっと歴史をみて行くと民衆と天皇の間に有るものが出来て来ます。夫れは権力の手段である為、夫れを胡魔化す為にはいろいろな道徳も説かなければなりませぬ。是は謂わば間違った生き方であります。日本の本当の生き方というものではありませぬ。民衆が各々其の処に健全な生活をして行くことが、本当の天皇の御意志でなければならぬとそういう風に考えました。是れは先生の学問というよりも、私がそう考えたのでありますが、夫れで私は先生の学問は本当に日本の歴史というものから、此の具体的事実から見て日本の本当の制度と組織、そういうものの正しい学問だと思います」