平成26年4月9日に、大阪市は水道事業の民営化についての基本方針案を決定したが、『顔のない独裁者 「自由革命」「新自由主義」との戦い』(三橋貴明氏企画・監修、さかき漣著)には、コンセッション方式(公共インフラの資産保有者は政府のままとし、運営権を民間の株式会社に委譲する方式)の危険性が見事に描き出されている。新自由主義の旗を振る竹中平蔵氏が次のように書いているのを思い出し、さらに恐ろしくなった。
〈成長戦略のもう一つの柱は、インフラの運営権民間売却、いわゆるコンセッションだ。これについてもいま、実現の方向に向かっている。官が独占しているインフラ運営に民間が参入することで、サービスの中身が向上する。かつ少なくとも数十兆円といった大きな規模で改善に貢献することが期待される。
コンセッション方式は、海外の主要国で一般に行われているにもかかわらず日本で極端に遅れてきた政策分野だ。例えば欧州の主要空港の多くは、いまや所有形態に関わりなく民間が運営している。オーストラリアの主要空港も、コンセッション方式で民間が運営する。米国でも、シカゴの有料道路の運営権を民間企業に売却し成功している事例が知られている。隣国韓国も、コンセッションに積極的だ。理論的に考えて、キャッシュフローを生むインフラについては、その流列の割引現在価値で、運営する権利を民間に売却することができるはずだ。道路、空港、上水道、下水道などが、コンセッションの対象となる。
日本では2年前に、その為の法律が整備されている。しかし、十分活用には至っていない。現状の法律では、道路と空港という重要分野が対象外となっており、さらなる法整備も必要だろう(空港については法律改正が進んでいる)。重要な点は、コンセッションをある程度の規模でまとまって行うことだ。そうすることによってはじめて、民間でそれに本格対応する準備ができる。また、インフラファンドの整備も可能になる。その意味で、政府の明確な「コミットメント」と、それを示すアクションプランのようなものが期待される。
コンセッションの規模について、正確な議論をするのは難しいが、いくつかの指標から以下のような推察を行うことができる。まず、空港・道路・上下水道などキャッシュフローを生むインフラの簿価は約100兆の規模(ネット)に達する。例えばこの半分の運営を10年で民間に開放すると、50兆円規模のコンセッションが可能であるということになる。また統計的に把握が可能な部門について現状のキャッシュフローを我々なりに求めたところ、約3.7兆円になることが明らかになった。一般に資産価値は、キャッシュフローの10-20倍と言われている。そう考えると、やはり数十兆円の規模でコンセッションが可能ということになる。
世界には今、インフラの運営を手掛けるグローバルな企業が存在する。しかし日本に、そうした企業はない。その理由は、日本ではインフラ運営を官が独占し、民間に開放していないからに他ならない。コンセッションは、民間部門とりわけ建設業に大きな可能性を拓くものだ〉(竹中平蔵「突破口は「特区」と「コンセッション」―“成長戦略”の要件④」2013年4月16日)