対米自立を宣言した初めての首相

 戦後日本の対米従属外交を批判した孫崎享氏の『戦後史の正体』が大きな反響をもたらす中で、いま改めて鳩山由紀夫政権がつぶれた理由を考える必要がある。
 亀井静香氏は、歴代日本の総理大臣で、アメリカと対等にやると宣言したのは鳩山さんが初めてだと言う。
以下、7月27日に放送された「マット安川のずばり勝負」での亀井氏の発言を紹介する。
 亀井静香氏「わきあがる地熱、官邸前脱原発デモが政治を動かす 結党理念を忘れ談合政治に回帰する新自由主義・野田政権」


マット安川 政局ばかりが報じられる中、「野田政権はアメリカの回し者」と言い切った亀井静香さんが初登場。消費税増税の背景や、現在日本が抱える諸問題について伺いました。

脱原発デモは、幕末の「ええじゃないか」と似た民衆運動
亀井 日本の政治は、次の選挙でガラっと変わっちゃうと思いますよ。私も参加しましたが、いまの首相官邸前、国会前の原発再稼働反対・脱原発デモの動きは一過性のものではない。
 いまは脱原発ということで集まっていますが、それが反消費税増税、反オスプレイと広がりつつある。東京も大阪も愛知も、そういううねりがいま現に起きている。これは地熱みたいなもので、私はこの熱が次の選挙、政治を動かすと思います。
 既成政党の自民党や民主党がいくらウソを言って国民をダマそうとしても、国民はもはや耳を傾けなくなっている。国民はみんな皮膚感覚でこれは間違っている、自分たちは間違った流れの中で生活をさせられている、さらにもっと危険な生活をさせられようとしているということに気づいている。
 地震を予知してネズミが逃げると言われているのと同じような動きです。ただネズミとは違い、逃げるのではなく、自分たちがこの流れを阻止して変えようという動きが起きているわけです。
 この動きは、幕末の「ええじゃないか」運動によく似ている。当時の民衆は歴史に突き動かされ、居ても立ってもいられない、そういう気持ちが「ええじゃないか」運動になったんです。そして明治維新が起きたわけです。
 だから今度も脱原発デモのような動きが選挙を制し、そのあとは政治のプロが身を捨てて命懸けで、そうした動きを政治的な力にして日本を変えていかなければならない。それで初めて明治維新のような現象が起きるんです。

民・自・公の談合政治が再び弱肉強食の政治を推進しようとしている
 3年前、強者だけが繁栄するんじゃなくて、弱者も、という政治をやろうということで、小沢(一郎、国民の生活が第一代表)さんや鳩山(由紀夫、元首相)さん、私や社民党の福島(瑞穂、党首)さんが手を結んで、自公政権をひっくり返した。
 社民党まで連立に加わり、まさにそれまでの自公政治とは違う新しい政治を始める象徴的なことだったんです。そうやって民主党政治は始まったはずなのに、新自由主義を推進してきたアメリカのおっしゃる通りにやろうという勢力に民主党は乗っ取られちゃった。
 それが野田(佳彦、首相)さんと菅さん(直人、前首相)ですよ。あの人たちは自公と手を結んだ。新自由主義、弱肉強食の政治を推進してきた人たちと、彼らは手を結んだんです。自公民の談合政治です。
 国民と関係ないところで、選挙もしないで、談合で大事なことを決めている。それに対して、鳩山さんと小沢さんが対決している。
 私は鳩山さんにも言うんだけど、あんたが悪いんだと、あんたが負けたんだと、小沢さんも負けたんだと。ただ、鳩山さんは金持ちだけど、本人は金持ちだけが豊かになる政治じゃいかんと思っている。
 アメリカにペコペコする言いなりの政治じゃいかんと。彼が初めてですよ、歴代日本の総理大臣で、アメリカと対等にやると宣言したのは。

世界中で進む貧富の格差。文明の反逆がいま起こっている
 いま世界中が文明の反逆を受けているんですよ。文明というのは、欲望が爆発していくことによってどんどん進んでいく。カネ儲けをしたいということで、科学技術も進むし、世の中の仕組みも金融から何からどんどん発展していく。
 だけど、その結果起きたのが弱肉強食です。強者が弱者を食いものにしてでもカネを稼ぐ。それを正当化するのがアメリカの新自由主義、ネオリベです。
 新自由主義は、経営者を襲う誘惑なんです。従業員や下請けを安く使って儲けたいと。すでに日本にも入ってきている。
 しかし、いままでの日本は経営者も働く人もみんなで協力して、そういう中で利益を上げていくという社会だった。これが日本型経営だったんです。終身雇用、正規社員主体の国だった。
 それが小泉(純一郎、元首相)政権時代に、ブッシュ大統領との会談で、アメリカが突きつけてきた要求を丸飲みしちゃった。その結果、気がついたら格差社会でしょ。いま年収200万円以下の人たちが1200万人もいて、一部の人たちが巨万の富を握るような状況になっている。
 当時、私は「抵抗勢力」と言われた。変わり者扱いされたんですよ。それはマスコミだけでなく、国民からもされたんですから。
 当時は多くの人が小泉政治バンザイとやっていたんです。金持ちだけじゃなく、そうじゃない人たちも、自分が稼げばいいということで、純ちゃんバンザイ、純ちゃんステキと言って投票した。
 消費税増税ではなく、役所の小遣い「特別会計」にメスを入れよ
 日本経済のパイはどんどん小さくなっています。新自由主義の結果、一般の人が税金を払えない状況になっている。法人税だって小さな企業は払えない。
 企業の約70%が法人税を払っていないんです。庶民も給料がどんどん減って、所得税も減っている。
 小泉さんの直前、私が政調会長をやっていた時は、税収は61兆円近くあった。いまや40兆円そこそこです。間違った政治が経済をしぼませたんです。それで消費税率だけ高くしたって税収は増えないですよ。
 消費税増税は簡単に言うと、財務省の悲願なんです。これは竹下(登、元首相)さんの時からずっとです。間接税の利率を上げたいと。
 財務省は、経済がどうなろうと間接税の率だけは上げたいという悲願にしがみついているんです。
 経済の環境は関係ない。率だけ上げればいいんだという。そして野田総理がそれをまっしぐらにやっている。
 特別会計には200兆円以上もあるんです。特別会計というのは、簡単に言うと各省庁の小遣いなんですよ。これは政治家が手をつけられないカネになってしまっている。民主党は当初、これにメスを入れて20兆~30兆円出すと言った。
 これは一つの正しいやり方だった。当時、私が鳩山総理に言ったのは、ゼロベースでやりなさいと。まず特別会計はなしにしてしまい、どの特別会計が実際に必要なのか個々に精査して積み上げていけば、あっという間に50兆~60兆円は出る。
 役所の小遣いみたいなものを残しておかないで、会計制度を変えるだけでそれだけのカネが出るんです。
JBPRESSより
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35819

坪内隆彦