アジア人の人類への貢献
東アジア共同体の課題として、経済、安保分野の協力とともに、文化面における協力の重視性もようやく認識されるようになった。東アジアが単に地域的な利益を確保していくだけでなく、国際社会で貢献していく上で、いかに文化協力が重要かについては、東アジア連帯の気運が盛り上がった1950年代半ばに、すでに明確に語られていた。その時代のアジア（・アフリカ）の文化交流の重要性に対する認識は、私たちの想像以上に深く、強烈だった。そこには、宗教誕生の地としてのアジアの誇りと、人類の進歩に対する貢献の歴史に対する明確な認識があった。それは、およそ100年前に岡倉天心が語り、やがてタゴールらによって引き継がれたアジア文化に対する誇りに繋がる。
天心は、「東洋の達成は、何千年にもわたる安定そのものが勝利を示しているその社会制度にささげられた贈り物である。世界のすべての偉大な宗教は、われわれが贈ったものである」（『東洋の覚醒』）、「東洋から宗教を除けば無である。東洋の最大の成果は宗教の発見にある。即ち、東洋が為した人類への貢献は、宗教を創立した事である」（1911年）と述べている。また、タゴールは、「われわれはアジアに大王国が建設され、哲学、科学、技芸、文芸が栄え、また世界の大宗教のことごとくが、その発祥の地をアジアにもったことを忘れていた」（蝋山芳郎訳）と述べていた。
1955年に開催されたアジア・アフリカ会議には、こうしたアジアの自信に対する認識が継承されていたように見える。そして、その2年後、中国の楚図南が行った呼びかけには、その意思がはっきりと受け継がれていたのではなかろうか。
彼は、次のように語っている。
「……私たちが私たちの文化遺産を語るとき、私たちは、誇りをもって語ることを禁じ得ません。私たちアジア・アフリカ両大陸は、かつて偉大な宗教と人類文化の誕生の地であり、揺籃の地でありました。アジア・アフリカの各民族は、過去長い間、人類文化に貴重な貢献をしてきました。それ故に、私たちは、私たち自身の民族文化を発展させ、それによって人類文化のよりいっそうの繁栄と成長を豊かにしなければなりません。数千年の昔、人類の歴史の黎明期に、私たちの祖先は、互に繋がっている土地や無数の美しい島々より成るこの両大陸の上に、文化的な生活の創造を開始しました。自然を征服する戦いを通じて、彼らは、数世紀にわたってその経験や知識を蓄積し、遂に世界歴史に燦然と輝く高い水準の文化を築き上げたのです。
アジア・アフリカの文化的発展の特徴の一つは、その幾千年の歴史において、これら諸国間に平和で友好的な文化交流が続けられたということです。私たちの祖先は、生命の危険すら冒して、砂漠、森林、大洋、高山を横ぎって文化交流のための道を切り拓いてきました。知識、友好、人類の幸せを探求するため、諸国民の平和な友好的な文化交流を押し進めるため、アジア・アフリカ諸国民のみならず、全世界の人びとに対しても素晴しい手本を示しました。
紀元前四〇〇〇年も前に、エジプトやメソポタミアは互に接触を始め、影響し合いました。エジプト人やスメリア人は、長い間、生産技術、文化、芸術を互に学び合いました。アラブ諸民族や中央アジアの民族が中世紀に行った国際文化交流への輝かしい貢献は永久に忘れられないでしょう。哲学、文学、芸術、天文学、医学、物理学、化学、法律学、歴史の分野における私たちの祖先である学者の不滅の業績は、その後長い間アジア、アフリカ、ヨーロッパの文化に深甚な影響を与えてきましたし、今日でもなおその永続性を示しております。……
アジア・アフリカ諸国人民は、西欧文化の中の有益なるものを決して否定したり、除外したりするものではありません。しかし私たちは、植民地的タイプの文化に対して我慢することができません。植民地主義者は、ある者は手に武器を持ち、またある者は多様な装いをこらして、私たちの国にやってきました。私たちの国の豊かな資源と有り余る労働力を最大限に搾取するため、彼らは私たちの奴隷化を目指し、脅迫し、誤魔化し、無知化の政策を用いました。一方において彼らは、私たちの偉大な歴史的文化を侮蔑の眼で眺めたり、否定し去ろうと試みました。そして、私たちから民族的自信と誇りを奪ってしまうために、私たちに対し未開民族という言葉を被せてきました。彼らは、私たちの文化的記念物の徹底的な破壊と、私たちの貴重な文化的遺産を恥ずかしがらずに掠め取ることに従事しました。そして他方において、彼方において、彼らは到る所で彼らの退廃的な文化を撒きちらし、私たちを根元から毒してしまい、さらにいっそうの侵略への道を切り拓こうとしました。彼らは、あらゆる方法で、アジア・アフリカ諸国間に不和の種を植え付け、私たちの間における文化交流を遮断する障壁を築き上げようとしました。このようにして、私たちの進歩は妨げられ、私たちの発展は多くの困難にぶつかりました。そして植民地主義者は、こうした事情に付け込んで侵略をさらに進め、私たちをいっそう奴隷化してゆきました」…（アジア・アフリカ諸国人民連帯会議における中国代表団楚図南の文化交流促進に関する報告／1957年12月26日／カイロ、『資料体系アジア・アフリカ国際関係政治社会史』第５巻 アジア・アフリカ（第三世界）Ⅱｄ、パピルス出版、1983年２月）。