佐橋滋の人となり─江波戸哲夫『小説通産省』

江波戸哲夫は『小説通産省』(かんき出版、1986年)で、次のように佐橋滋の人となりを画いている。
江波戸哲夫『小説通産省』

〈佐橋という魅力的な人物を短く語ることは難しいが、それを試みると──
 まず直言の人である。内に顧みて直くんば百万人と言えども我行かんの人である。上司と言えども無礼とも思われるほどの直言をして左遷させられることもあった。が、本人はそれほど痛痒を感じずたちまちまた本省に返り咲いている。それだけ実力があるのである。
 自分は天下国家を思っているのだと、己れをたのむ気持ちは人一倍強い。
 業界団体のボスからクレームをつけられたとき、その業界のメンバーの集まっている中で一種の大衆裁判をやり、オレをとるかそのボスをとるかとメンバーに迫ってボスを排撃している。
 人物を見ることを好む。そこで人事が好きになる。異動期になるとしばしば人事予測をし、省内の人びとからその予測の内容を教えてくれるようせがまれている。
 人の好悪が激しい。好めばヒイキのヒキ倒しに近いこともやるが、疎んじればこれをバカだのチョンだの言ってくさす。佐橋派の実力者と目されるキャリアでさえも「オレを佐橋派と言ってくれるな」とか「オレを買っているなどと言ってくれるな」と注文をつけるほど佐橋の好悪ははっきりと態度に現われた。
 直言は政治家にも及び、企業局長のあと次官になるはずだったのを通産大臣のおぼえめでたからず、一年、特許庁長官の回り道をした。
 直言と頑迷は紙一重であるし、人の好悪をあからさまにするのは狭量なことであるし、天下国家を思う気持ちも独りよがりであることもある。しかし、そんな内省と無縁なのが佐橋の人となりとなっていた。
 ともあれ、佐橋は、現代にはほとんどいなくなってしまい、今後も現われるとは思えない典型的な国士型官僚であったと言えるだろう。〉


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