東南アジア料理論⑰

ココナツミルク

東南アジアを覆うココナツミルク煮(17日目)
東南アジアはすっぽり魚醤圏に入るが、同時にココナツ圏にも入る。もちろん、ココナツ圏には東南アジアだけでなく南太平洋の島々が含まれる。
「椰子の木の並ぶ白い砂浜」。依然として熱帯地域の国々にはそんなイメージがある。日本ではココナツは結構いい値段だが、当然ながら東南アジアでは極めて安価。道をあるけば人々が気楽にココナツジュースを飲んでいる。
ところで、タイ料理の旨さの秘訣は、「辛、酸、甘、塩」の四種の味が巧みに調和されていることにあるとされる。 
タイやインドネシアなど、東南アジアの激辛料理は、他の調味料とのハーモニーによってこそ引き立てられているように感じる。トウガラシをふんだんに使ったカレーもまた、辛さだけでは成り立たない。トウガラシのパートナーとしては、どうしてもココナツミルクの甘さが欠かせない。実際、タイでもインドネシアでもカンボジアでも、東南アジアのカレーにはココナツミルクを入れる。これによって辛さとまろやかさが調和して独特の味になるわけだ。つまり、トウガラシなどのスパイスを多く使う料理ほどココナツミルクが必要とされる。インドのカレーがヨーグルトによってまろやかさを出すのと同じことである。
インドネシアでは、特に西スマトラのパダンがトウガラシとココナツミルクを使った辛い料理の本場である。牛肉をスパイスとココナツミルクで長時間煮込むルンダンが有名。肉にスパイスの味が良く染み、なんともいえない深い味わいだ。水牛の肉を使うこともあるが、長時間煮込むことによって固い肉が柔らかくなり、とても美味しい。
パダン料理に対して西ジャワのスンダ料理には、オポールアヤムという鶏肉のココナツミルク煮があるが、こちらは、スパイスを使うがそれほど辛くはなくて、ココナツミルクのまろやかな甘みを楽しむ料理といっていい。
ミャンマー料理には、タイ、インド、中国など様々な料理の影響が見られる。トマトソースやタマリンドソースをベースに、魚醤油ンガンピャーイェーで味づけするが、ここでもココナツミルクを使うことが多い。
また、肉料理ばかりでなく、シーフードもココナツミルクと大変相性がいい。マレーシアには「イカン・マサラマ」というイトヨリのココナツミルク煮がある。タイには「プラー・チューチイ」という揚げ魚のスパイシー・ソース煮があるが、ここでもココナツミルクは欠かせない。


筆者がつくったギナタン・イスダ
 フィリピンには、ギナタン(GINATAN)というココナツミルク煮料理があるが、魚を使ったギナタン・イスダ、海老を使ったギナタン・ヒポン、カニを使ったギナタン・タランカと、いずれも美味しい。
実は、東南アジアの中で珍しくフィリピン料理は概して辛くない。したがって、トウガラシとココナツミルクの組み合わせの「激辛・まろやか」料理はないと思われがちだ。

本来、スペインの植民地となる以前には、フィリピンはマレーシア、インドネシアとともに広義のマレー世界を構成していた。当然、スペイン、アメリカの文化の洗礼を受けた後にもなお、インドネシア・マレーシアと文化的親近性が残されている。それなのに、料理はインドネシアなどと比較すると全然辛くないのである。
だが、フィリピンにもギナタンのような「激辛・まろやか」がちゃんとあるわけである。ただし、これらのオリジナルはルソン南部のビコール地方に限られている。
また、ベトナムにもスパイスとココナツミルクを使った料理が少なくない。ただし、中華の影響が強い北部ではなく、南部に多い。
こうして各国を見てくると、地方によってかなりの差異があるものの、スパイスとココナツミルクをベースとした料理は東南アジア共通のものだといっていい。

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