「安倍政権はグローバル企業の奴隷か」

以下『月刊日本』平成26年9月号に載せた「安倍政権はグローバル企業の奴隷か」を転載する。

 
〈安倍政権の成長戦略に盛り込まれた法人税減税、「残業代ゼロ」制度、農業改革、混合診療拡大、水道などの公共サービスの民営化加速──などは、いずれもグローバル企業の利益拡大に結び付くものばかりだ。
 雇用、健康、安全など生命に深く関わる分野で国民を保護してきた法律を破壊して、新たな市場を形成し、グローバル企業の利益を拡大しようとしている。
 こうした新自由主義政策の旗を振っているのが、産業競争力会議、国家戦略特区諮問会議、規制改革会議などだ。こうした会議には、グローバル企業の代弁者やそれに連なる財界人たちが多数送り込まれている。
 産業競争力会議には、秋山咲恵(サキコーポレーション)、岡素之(住友商事)、榊原定征(東レ)、坂根正弘(コマツ)、竹中平蔵(パソナグループ)、新浪剛史(ローソン)、長谷川閑史(武田薬品工業)、三木谷浩史(楽天)が民間議員として名を連ねている。

 国家戦略特区諮問会議には、秋池玲子(ボストンコンサルティンググループ)、坂根正弘(小松製作所)、竹中平蔵が民間議員として参加。同会議は、「日本破壊」の尖兵とも批判される、モルガン・スタンレーMUFG証券株式会社チーフエコノミストのロバート・アラン・フェルドマン氏からもヒアリングしている。
 そして、規制改革会議委員には、岡素之、浦野光人(ニチレイ)、金丸恭文(フューチャーアーキテクト)、佐久間総一郎(新日鐵住金)、佐々木かをり(イー・ウーマン)、滝久雄(ぐるなび)が委員として、滝口進(日本メディカルビジネス)、松山幸弘(キヤノングローバル戦略研究所)、小林三喜雄(花王)、圓尾雅則(SMBC日興証券)、北村歩(六星)、田中進(サラダボウル)、松本武(ファーム・アライアンス・マネジメント)、渡邉美衡(カゴメ)が専門委員として名を連ねる。
 自社の利益拡大のために、国民を無視して法律を変えようというこの流れに対して、政治家たちは抵抗できないでいる。与野党問わず、新自由主義に毒された国会議員が増殖しているからだ。
 ここで注目したいのが、外資系企業出身議員の動きである。
 もちろん、彼らがすべて新自由主義路線の推進役を演じているわけではないが、大半の議員が安倍政権の「第三の矢」推進に呼応した政策を掲げている。
 外資出身の衆議院議員では、モルガンスタンレー証券出身の小田原潔議員(自民)が「世界で一番企業が活動しやすい国へ」と、仏ソシエテジェネラル信託銀行出身の山田賢司議員(自民)が「世界を相手に稼げる日本を取り戻す」と、さらにボストンコンサルティンググループ・エルメスジャポン出身の山田美樹議員(自民)が「グローバル競争に不利な日本」の克服を訴えている。まさに、「第三の矢」礼賛だ。
 日本金融財政研究所所長の菊池英博氏は、マッキンゼー社出身で、現在経済産業相を務める茂木敏充氏(自民)もまた、筋金入りの新自由主義者だと見る。
 一方、ゴールドマンサックス証券出身の岡本三成議員(公明)は「TPP参加を見据え、世界に勝てる農業を実現するため、農地制度の緩和や技術革新を積極的に推進します」と、バンクオブアメリカ出身の大熊利昭議員(みんな)は、郵政の完全民営化、電力の完全自由化などを主張している。
 外資出身の参議院議員にも、外資の利益に沿った動きが目につく。外資系証券会社を渡り歩いてきた佐藤ゆかり議員(自民)は、郵政解散を受けた2005年の総選挙で、郵政民営化法案造反組の野田聖子氏の「刺客」として出馬した人物。
 モルガン・スタンレー証券出身の大久保勉議員(民主)は、フェルドマン氏の元同僚でもあり、日本の金融機関から外資系金融機関に転じた人物が集まる勉強会を開催し、ビジネスに関連する情報を提供していたという。菊池英博氏は次のように指摘する。
 「驚いたことに、大久保氏は2007年10月に郵政公社が民営化されるときに、公社が保有している物件のうち、売りに出す物件のリストを持ち歩き、勉強会の参加者に配布していた」
 みんなの党は、新自由主義路線を鮮明にしているが、特に外資系企業出身者の主張ははっきりしている。JPモルガン証券出身の中西健治議員(みんな)が、「企業の活力を引き出すために……医療、介護、保育、さらに農業ほか様々な分野での規制緩和を政府がリーダーシップを強力に発揮して速やかに実行するべき」と主張し、アンダーセンコンサルティング出身の山田太郎議員(みんな)が「経済成長の足を引っ張る制度や法律の改廃」を掲げる。
 菊池氏は中西議員は郵政民営化に執心していると指摘する。中西議員は3月4日の参院予算委員会で日本郵政前社長の坂篤郎氏が顧問として残っていることを問題視し、坂氏は菅義偉官房長官によって事実上解任された。
 政治家と外資系企業の橋渡しも、こうした外資出身議員によって進められていると推測される。
 一方、日本の大企業はアメリカ系グローバル企業と利害を共有するようになっている。TPP推進の旗を振るのも、グローバル企業、日米の大企業である。この日米財界一体化の構造は、新自由主義イデオロギーの共有と同時に、資本関係によってより強固なものとなってきた。
 年次改革要望書が出されるようになった1994年、対日投資会議が設置され、1996年4月には対日M&Aを歓迎する声明が発表されたのである。本誌8月号で佐々木実氏が指摘したように、2001年にはアメリカの有力シンクタンク外交問題評議会が提言を出し、「アメリカ企業が、日本における企業活動を通じて、構造的な変革を進めるトリガーとなる」と唱えた。
 2007年には三角合併が解禁され、シティグループによる日興コーディアルグループの買収など、日本企業の買収が進んだ。
 日本企業の外国人持株比率は、1990年代前半には10%に満たなかったが、それから20年を経た今年3月末には約30%にまで拡大しているのである。外国人が株式の過半数を保有している「日本企業」も拡大している。
 安倍政権は、「日本の『稼ぐ力』を取り戻す」などと言っているが、日本の大企業の稼ぎは、国民に還元されることなく、外国人株主を潤すことにしかならない。もはや、安倍政権はわが国の国民資産を略奪しようとするグローバル企業の奴隷と化したと言わねばならない。〉

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