書評 玉川博己
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本書は坪内隆彦氏自身が編集長をつとめる『月刊日本』に連載してきた「日本文明の先駆者」の中から抜粋されたものを中心にまとめられたものである。私もこの連載はずっと愛読しており、以前からその出版を待ち望んでいただけに期待に違わぬ内容である。
坪内氏は3年前にやはり『月刊日本』誌に連載した「アジアの英雄たち」をまとめた『アジア英雄伝-日本人なら知っておきたい25人の志士たち』を出版しており、大変好評であったが、今回の著書はその姉妹作ともいうべきものである。
さて本書は西郷南洲、杉浦重剛、頭山満、内田良平ら明治維新以来20人の先駆的思想家の列伝となっている。筆者によれば「本書で取り上げる人物の多くは、肇国の理想を現代において実現しようとした先駆者である」という基準でその思想と行動を簡潔明瞭にまとめている。
上記にあげた西郷南洲などはまだ多くの伝記があってよく知られているが、それ以外のたとえば荒尾精や今泉定助などは戦後の日本ではほとんど忘れ去られた思想家である。また来島恒喜は狂信的テロリスト、植木枝盛はフランス革命風の自由民権運動家として誤った見方が定着してきた。
植木枝盛についていえば確かに戦前から明治維新を絶対主義的変革とみなし、きたるべき革命はまずブルジョア民主主義革命を経て社会主義をめざすという講座派マルクス主義(日本共産党の公式史観である)の立場からは、自由民権運動のヒ-ロ-として位置付けられ、その国権主義的側面は意図的に無視され、そういう植木枝盛像は戦後も学校教育の中で定着してきたのである。
坪内氏も、とくに戦後家永三郎による誤った植木枝盛論を鋭く批判しているがまさに正論である。自由民権運動とはその根底に日本の独立の希求と熱き国権意識があった。それゆえにその流れは玄洋社などに受け継がれ、また北一輝にも大きな影響を与えたのである。
昭和維新運動の特徴は社会変革意識である。大川周明も北一輝もまた他の思想家も決して資本主義を維持しようとしたブルジョワ反動主義者ではなく、むしろ資本主義の欠陥を社会主義的に是正しようとしたのである。
これこそ昭和維新運動の本質であった。
坪内氏もその先駆として維新の推進力となった水戸学には、何よりも社会の矛盾がもたらした貧富の差など今でいう格差社会に対する憤りがその根底にあったと述べているが、それゆえに水戸学は維新革命の原動力たり得たのである。
今泉定助の「世界皇化」論はかつて我々の民族派学生運動においても少なからぬ信奉者がいた。古書店で探し求めた今泉定助の著作はよく読まれたものである。私にとっても懐かしい。戦後においては今泉定助の思想は大川周明と同様に大東亜戦争における侵略戦争美化イデオロギ-と片づけられているが、もっと再評価されるべき思想家ではないだろうか。
坪内氏は明治維新以降における日本の革新思想の源流が肇国の理想と国体に対する信念にあったということを主張しており、それが本書を貫いているバックボ-ンであるが、私も全く同意したい。
国体意識なき政治思想、改革論などは歴史の屑箱に投じられるのみである。本書は是非とも若い世代の読者に読んでもらいたいと思う。
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「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」平成23(2011)年12月1日(木曜日)通巻第3505号