以下、山崎行太郎氏の「石原莞爾と木村武雄。……坪内隆彦著『木村武雄の日中国交正常化』を読む」(令和4年11月7日)を紹介します。
今年は、《日中国交正常化50周年》を迎え、記念式典も開催されたようだが、田中角栄内閣時代に実行された、この《日中国交正常化》という歴史的イベントをめぐっては、その評価は大きく分かれているようだ。本書の著者=坪内隆彦は、《王道アジア主義》という理念の元に、それを高く評価している。王道アジア主義とは、《覇道の原理でアジアに迫る欧米の勢力を排除し、王道の原理に基づいたアジアを建設する》ということだ。この王道アジア主義は、石原莞爾や西郷南洲、頭山満等の思想にも通じる。こういう立場は、現在の日本では、おそらく少数派かもしれない。現在、日本の政治状況は、 安倍晋三や安倍晋三シンパ、あるいは《ネットウヨ》が象徴するように、米国主導の中国敵視政策、中国包囲網作りの渦中にあり、とても《日中国交正常化50周年》を、素直に祝う雰囲気ではない。その意味では、本書は、反時代的な書物ということになるかもしれない。しかし、坪内隆彦は、そういう近視眼的な歴史感覚ではなく、《王道アジア主義》という大きな歴史哲学の元に、 《日中国交正常化50周年》を捉えようとしている。
そこで、彼が着目するのは石原莞爾と木村武雄である。特に、田中角栄内閣で、《日中国交正常化》に向けて奔走した木村武雄という政治家に着目する。私も、木村武雄という自民党政治家のことは知っていたが、その政治思想としての《王道アジア主義》のことも、田中角栄内閣で、《日中国交正常化》に奔走したことも知らなかった。木村武雄は、石原莞爾と同郷の山形県米沢の出身であり 、若い時から、石原莞爾の《王道アジア主義》に共鳴し、石原莞爾に私淑し、石原莞爾亡き後は、石原莞爾の遺志を受け継ぐべく、あくまでも裏方として、《王道アジア主義》実現に向けて尽力、奔走していたというわけだ。
実は、坪内隆彦氏は、私も「顧問」として参加し ている民族派右翼の思想雑誌『維新と興亜』の編集長である。『維新と興亜』を舞台に編集長の坪内隆彦氏だけでなく副編集長の小野耕資氏、発行人の折本龍則氏……等も、自民党=統一教会的な《ネットウヨ》とは一線を画した、反米愛国的な、あるいは反統一教会的な《民族派右翼》とでも言うべき立場から論陣を張っている。
本書は、自民党的保守や自民党的右翼、《ネットウヨ 》的保守、あるいは《ネットウヨ 》的右翼とは、思想的次元の異なる《 保守》や《 右翼 》というものが存在することを、明晰に明らかにしている。《 中国敵視政策》も《中国包囲網作り》も、日本の伝統や文化を守り、日本国民の人権と国益を守る道ではない。