民主党の裏切り─労働者派遣法改正案を骨抜きに

宮内義彦氏と人材業界トップが推進した労働分野の規制改革
労働分野の規制改革は、新自由主義政策を推進する小泉政権下で一気に加速されたが、その際そのアクセルを踏んだのが、オリックス代表取締役会長兼グループCEOの宮内義彦氏を議長とする総合規制改革会議である。
問題は、労働分野の規制改革が、関係業界の利益を拡大するために進められてきたことである。驚くことに、総合規制改革会議の委員には派遣会社など人材関連企業のトップが三人入っていた。株式会社ザ・アール代表取締役社長の奥谷禮子氏、株式会社リクルート代表取締役社長の河野栄子氏、株式会社イー・ウーマン代表取締役社長の佐々木かをり氏である。
総合規制改革会議の人材(労働)ワーキンググループ主査を務めたのは、慶應義塾大学商学部教授の清家篤氏である。
総合規制改革会議は、平成13年7月24日に発表した「重点6分野に関する中間とりまとめ」の中で、次のように主張していた。

1.派遣労働者の拡大
労働者派遣制度については、昨今の雇用情勢の急速な変化を踏まえ、労働者の働き方の選択肢を拡げ、雇用機会の拡大を図る等の目的から、派遣期間の延長や「物の製造」の業務の派遣禁止の撤廃等を含めて、法施行3年後の見直し規定にかかわらず、労働者派遣法の見直しに向けて今秋から調査・検討を開始し、可及的速やかに法改正を行うべきである。【見直し前倒し】

あわせて紹介予定派遣の円滑な運用を妨げている派遣先による派遣労働者を特定することを目的とする行為の禁止等について、現行制度の運用の見直しを直ちに行うべきである【直ちに見直し】。さらに紹介予定派遣については実態調査等を踏まえ、上記労働者派遣法の見直しと併せて、法制度を含む現行制度の見直しを検討するべきである。【見直し前倒し】

なお、現下の深刻な雇用情勢にかんがみ、上記の法改正に至るまでの緊急措置として、現在3年の派遣が認められている業務(旧適用対象26業務)の範囲を拡大する等、法改正を必要としない見直しについては今秋に検討に着手するべきである。【平成13年中】

小泉政権下で解禁された製造業派遣
そして、小泉政権下において、平成15年6月に製造業への派遣解禁などを含む労働者派遣事業法改正が実現し、翌年3月に施行された。以来、自民党政権下では、この新自由主義政策に沿った労働分野の規制改革は見直されることがなかった。この間、派遣業界はその売上を急速に拡大する一方、格差拡大が深刻な問題となった。
ところが、人材派遣会社からは規制改革の旗振り役に対して、露骨な功労賞も与えられた。平成21年8月26日、人材派遣会社のパソナグループは 竹中平蔵氏が代表権のない会長に就任したと発表したのだ。⇒関連記事
皮肉なことに、労働分野の規制改革の見直しはその直後に動きだした。平成21年8月30日の衆議院議員総選挙で、民主党が圧勝して政権を握り、ついに新自由主義政策に沿った労働分野の規制改革を見直すときが訪れた。
同年9月9日、民主党、社会党、国民新党の連立与党は、次のように合意した。

「日雇い派遣」「スポット派遣」の禁止のみならず、「登録型派遣」は原則禁止して安定した雇用とする。製造業派遣も原則的に禁止する。違法派遣の場合の「直接雇用みなし制度」の創設、マージン率の情報公開など、「派遣業法」から「派遣労働者保護法」にあらためる。

平成22年4月には労働者派遣法改正案が提出された。ところが、成立しないまま時間だけが過ぎた。この間、改正案成立を強く主張していた社民党が連立政権を離脱した。
そして、平成23年11月に異常事態が起こった。驚くことに、民主党は、自民党、公明党との間で、「製造業派遣の原則禁止」を削除した改正案に合意したのだ。民主・自民・公明は、平成23年12月7日、衆院厚生労働委員会でこの骨抜きにされた法案採決を強行した。そして、民主・自民・公明は翌8日の衆院本会議で可決しようとしたが、辛うじて阻止された。
そしていま、再び民主・自民・公明は採決を狙って動き出した。

坪内隆彦