佐藤堅司は『日本武学史』において、日本兵法の永久的大指針について次のように記している。
〈私は日本兵法の特質考察の重点を『日本書紀』神武天皇巻(『神武紀』)」に置きたいと思ふ。『日本書紀』は皇国万代の綱紀を闡明した最初の正史であるが、同時に日本兵書(『武書』と呼ぶのが適切である)の最古のものである。少なくともそれは最も古い武学資料を包蔵する史書である。私は山鹿素行の『中朝事実』武徳章と玉木正英の『橘家神軍伝』と跡部良顕の『神道軍伝』とが『日本書紀』の抜粋並びにこれに対する武学的解説であつたのを知り、夙くそれらに対して大なる関心をもつてゐたのである。然るに私はさらに大関子爵家秘蔵の『止戈枢要』といふ厖大なる編纂兵書を拝見した時、そのなかの圧巻と思はれる『六史兵髄』が『日本書紀』を根本とした六国史の兵髄であり、貴重な武学資料であることを知り、抜粋大関増業に対して深甚な敬意を表する気持になつた。従つて私が『神武紀』を選んだ理由は、同記における 神武天皇の兵法の特質を最もよく確認することが出来ると信じたからである。
私は『神武紀』を武学史研究者としての新たな観点において熟読した結果、神武天皇の陸海平等戦略と神策と神仁の戦法と攻撃戦法とが日本兵法の永久的大指針であつた事実を発見して、日本必勝の理法と日本が世界無双の兵法国である事実とを確認することができた〉