「誠実、公平、相互扶助を重視し、利子を認めない」。在来金融の常識を破るイスラーム金融に将来はあるか!?
投機とイスラーム
イスラーム銀行とは、欧米先進国の経済学に則った銀行と異なり、イスラームの経済思想に基づいて運営される銀行のこと。
イスラームが独特の経済思想を持っていることは良く知られている。誠実、公平、相互扶助が重んじらるイスラームでは、リバー(利子)が禁じられ、ズルム(不平等)をなくす努力をすべきことを期待されている。貧者の救済のために、ザカート(義務としての喜捨)が義務づけられ、サダカート(自発的な喜捨)が奨励されている。
ムスリムが行うラマダン(断食)の背景は単純ではないが、「貧しくて食べるに事欠く人々の気持ちを分かち合う」ことが意図されているともいわれる。ラマダン中には、バクシーシ(チップ)もはずむし、断食明けのお祭りではザカートを配って歩くことになっている。
そもそも、富や財に関してイスラームは特別な考え方をもっている。イスラームでは、所有は本来の権利ではなく、神の代理人となる試みなのである。
したがって、富と財は最大限に活用され、再生産される必要がある。労せずして生み出される利子は、富の偏在、退蔵を助長し、富の循環を妨げる。労働を伴うない利益は、公正に関するイスラームの観念に反するのだ。だがらこそ、イスラーム教では投機を悪とみなされるのである。
無利子銀行
コーランは「リバーはいけない」と定めている。リバはアラビア語で「自己増殖する」との言葉から派生し、利子を意味する。
では、利子がとれないから金をツボにでも入れて隠しておけばいいのか。というと、これも禁止されている。こうした退蔵は、経済活動を停滞させるので悪と考えられる。
それでは、どうしろというのか。
イスラーム教では、利子はいけないが利潤はいいとしている。つまり、事業に出資し、その利潤を受け取ることは正しいと考えられているわけである。
マホメットの時代には、キャラバン通商、すなわち遠距離をラクダを連ねて物資を運搬する事業が盛んだった。資金を持っている者たちは、このキャラバン通商に資金を託し、利潤を分配されていた。
マホメット自身、神の啓示を述べるようになる以前は、キャラバン頭の一人であったという。そして、女商人であった最初の妻ハディージャがキャラバン資金を提供していた。
だが、当然キャラバン通商も他の事業と同様、失敗することもある。途中で野盗に襲われるなどリスクも大きい。
この時代には、キャラバン通商が成功し、儲かった場合には、出資者は元本を回収したうえ、儲けをキャラバン頭との間で例えば折半し、失敗して損失が出た場合には、出資者の配分もゼロで、元本さえ保証されなかった。
いわば、確定利付き・元本保証ではなく、変動利付き・元本無保証であった。このような資金提供、利潤配分による事業投資は「ムダーラバ」(Mudaraba)と呼ばれている。ちなみに、資金提供者は「ムダーリブ」(Mudarib)、事業者は「ダーリブ」と呼ばれる。
つまり、イスラーム金融の原形は、7世紀当時のアラビア半島・ヘジャズ地方の商習慣の内容を神の名において定式化したものともいえる(「日本経済新聞」1986年9月17日付朝刊)。
実際には、銀行を介してムダーラバは行われている。
銀行は、資金提供者(投資・融資者)に有望と思われる投資計画を説明し、事業担当者を紹介する。銀行、事業者、資金提供者の3者で協議して、経費、利潤、利益配分など具体的条件が決められた上で、事業がスタートする。そして、銀行は事業が成功したときに、事業紹介料を融資者から受け取るわけである。銀行も事業に参加し、成功すれば報酬を得、失敗すれば出資金を失う「損益分担方式」を採用しているケースもある。
また、事業者自身も出資する合弁事業投資は「ムシャーラカ」(Musharaka)と呼ばれる。この場合にも、銀行が参加するケースがある。
さらに、商品買い付け融資は「ムラーバハ」(Murabaha)と呼ばれる。ある事業に必要な設備や商品があるが、資金が不足しているとき、銀行を介して融資を受ける。こうした際、銀行は預金者に融資目的を説明し、商品購入によって事業展開し、その利益から商品の代金と「立て替え金手数料」を返済していくのである。
こうした考えが基本とはなっているが、現代のイスラーム金融では「零細資金提供者の資金元本だけは保証する」、「事業者からはある程度の担保をとる」といった解釈が行われている。サウジアラビアのイスラーム金融では、事業が失敗して損失を生じた時は、その元金のみの返済を求め、提供資金のコストと期待利益の回収は断念するという方式が採用されている。
また、イスラーム金融では投下資本の利潤が確定して初めて利率が計算できるという建前をとっているので、年度末に利率を決めることになっているが、実際には予測と称して事前に利率を知らせることもある。
いずれにせよ、イスラーム金融は、利益拡大のために融資先の状況を省みず融資するというようなバブル期の日本の金融の在り方とは対局にある。銀行は、融資先に責任を負うという考え方が強いのである。同時に、貸し手優位の既存金融と異なり、資金提供者と事業家が等位の関係にあり、事業と運命をともにしようという意識が強い。
最首公司氏は、「利子が利子を生む西側金融システムと、融資に対して銀行も責任を負い、融資先のプロジェクトに銀行も当事者として協力するイスラーム方式と、どちらがこれからの世界経済の再建にとって有効だろうか」(最首公司「模索が始まったイスラム経済」『エコノミスト』1992年8月4日号、48ページ)と述べている。