破傷風菌やジフテリア菌といった細菌に感染した際には、抗生物質が投与される。しかし、抗生物質は人間の健康保持に必要な常在菌までも殺してしまい、人体に重大な影響を及ぼす可能性があると指摘されている。
それ以上に恐ろしいのは、抗生物質が効かないスーパー耐性菌の出現だ。2050年には年間1000万人がスーパー耐性菌で死亡すると予測されている。民主党の原口一博元総務相が昨年入院中に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)に院内感染したが、これもまたスーパー耐性菌の一種である。
本書はまた、細菌が抗生物質に対する耐性を獲得することによって、一般的な感染症もまた、再び致命的な病気になると警告している。腸チフス、結核、肺炎、髄膜炎、破傷風、ジフテリア、梅毒、淋病などに対して有効な治療法がなくなるということを意味する。
元凶は、畜産における抗生物質の乱用だ。そして、この乱用の原因が、本書が指摘する「効率と生産性を徹底的に追求する工業型農業」である。例えば、豚を効率的に飼育するためには、狭い場所にぎゅうぎゅう詰めにして飼育した方がいい。土地も、必要な労働力も小さくて済む。しかし、豚をこんな劣悪な環境に押し込め、ろくに運動もさせていないので病気にかかりやすくなる。そこで、病気予防のために大量の抗生剤が使われることになるのだ。抗生剤は豚の成長を早める働きもあるため、なおさらその使用に拍車がかかる。
続きを読む 書評 フィリップ・リンベリー他著『ファーマゲドン』