反新自由主義の旗出 ボリビアのエボ・モラレス(Evo Morales)大統領①

 ベネズエラのウーゴ・チャベス(Hugo Chavez)大統領なき後、ボリビアのエボ・モラレス(Evo Morales)大統領に注目が集まっている。2014年6月14~15日には、ボリビア東部のサンタクルスで、「G77(77カ国グループ)+中国」サミットが開催され、モラレス大統領が新自由主義を痛烈に批判した。
 以下、今から8年前の2006年6月に『月刊マレーシア』に書いた原稿を転載する。

 南米の二人の指導者に注目が集まっている。ベネズエラのウーゴ・チャベス(Hugo Chavez)大統領とボリビアのエボ・モラレス(Evo Morales)大統領の二人である。
 チャベスは、貧困層救済のための「平和革命」を掲げて一九九八年一二月の大統領選挙に勝利し、翌年二月に大統領に就いた。彼は、国営公社の民営化などの新自由主義経済路線が低所得層の生活を圧迫していると指摘し、二〇〇一年末には大規模な私有地の農民への分配、石油産業への国の統制の強化などを含む一連の新法を成立させた。二〇〇五年四月には、原油生産の操業サービス契約を結んでいる外資系企業に対し、所得税の引き上げと、ベネズエラ国営石油会社が六〇%以上の株式を保有する合弁会社に六カ月以内に移行すべきことを通告した。二〇〇五年末までに一六社が合弁方式で合意したが、難色を示していた仏トタール社とイタリア炭化水素公社が操業する油田が二〇〇六年四月にベネズエラ政府に接収され、国家管理下に置かれることになった。

 このチャベスの挑戦に続こうとしているのが、ボリビアのモラレス大統領である。先住民出身のコカ栽培農家指導者であるモラレスは、二〇〇六年一月に大統領に就任し、五月一日には国内の天然ガス事業を国有化する大統領令に署名した。現地生産を行う外国企業は直ちに交渉に入り、一八〇日以内に政府が求める新契約に移行しなければ、ボリビアから撤退を求められる。続いて五月一一日には、天然ガス以外の鉱物や森林などの天然資源についても国有化する方針を示している。
 自由な経済活動に至上の価値を置けば、両大統領の政策は無謀という結論になるかもしれない。しかし、二人の政策は社会主義を目指す戦いである前に、外国支配から脱し、民族の自立を確立するための戦いなのではなかろうか。ノーベル経済学賞を受賞したジョセフ・スティグリッツは、モラレス政権の資源国有化策を「奪われた資産の返還」として、支持する姿勢を明確にしている。
 何よりも、私たちは列強の植民地支配に喘いできたアジア・アフリカ諸国も両国と同様の境遇に置かれていたことを忘れてはならない。
 奪われた資源を取り戻そうという運動の萌芽は、すでに四四年前の一九六二年の国連第一七回総会で採択された「天然資源に対する恒久主権の権利」の宣言に見出せる。宣言は、(一)天然資源が保有国に属し、資源保有国の国民的発展と福祉のために用いられるべきこと、(二)資源開発に従事する外国資本の活動について、資源保有国が種々の条件・規制を課すことができること、(三)資源開発により得られた利益は、投資側と受入国側との協定に従って配分されねばならないことを定めている。
 一九七四年の第六回国連特別総会では、「新国際経済秩序(NIEO)樹立に関する宣言」が採択された。
 この宣言には、(一)いかなる国も自国の天然資源を保護するために国有化や所有権をその国民に移転する権利を持つこと、(二)天然資源の効果的な管理や自国の状況にふさわしい手段により開発を行う権利を持つこと等の原則が謳われている。
 こうした資源ナショナリズムが決して途上国のエゴではなく、植民地支配からの脱却を保証する重要な権利であることは、次の板垣與一の言葉にもはっきりと示されている。
 「今日の開発途上国のほとんどすべての国はかつて植民地・半植民地・属領であった。この歴史的事実を背景として、開発途上国が経済の『自立化』の課題に取り組むとき、単なる成長面での自立化ばかりではなく、残存する植民地主義的経済権益や外来要素を排除して、自己の主体性を回復するために『脱植民地化』(de-colonization)、『脱外来人化』(de-alienization)を指向する。自立化とは『自立=民族化』でなければならないのである」(『現代ナショナリズム』二二三頁)
 資源奪回運動は、石油ショックに絡む石油輸出国のナショナリズム高揚等にも後押しされていたが、国際的な運動としてそれを定着させた担い手こそ、現在マレーシアが議長国を務める非同盟諸国会議にほかならない。一九七〇年九月、ザンビアの首都ルサカで第三回非同盟諸国首脳会議が開催され、「世界経済の構造の早急な変革」が叫ばれた。NIEOは、続く一九七三年の第四回首脳会議で提唱された理念なのである。
 チャベス大統領の挑戦は、こうした非同盟運動が重視してきた、反帝国主義、反植民地主義の戦いの継続にほかならない。だからこそ、彼は一九世紀に南アメリカ諸国をスペインからの独立に導いた英雄シモン・ボリバル(一七八三~一八三〇年)に心酔している。彼は、二〇〇五年九月には国連総会特別首脳会合で演説し、ボリバルが一八一五年にジャマイカで記した「ジャマイカからの手紙」からの着想に基づいて、道義に基づく力を持つ国際都市の建設を提唱している。また、アメリカ主導の米州自由貿易地域構想に対抗して、社会正義に基づいた「米州ボリバル代替統合構想」を提唱している。
 むろん、私たちはチャベス流の国内経済政策を全面的に支持することはできない。だが、民族解放という彼の目標が、非同盟運動の理想に合致していることも忘れてはならない。そうした側面に一切の共感を示さず、それを抑える側に回るとすれば、それは非同盟の理念を支持する多くのアジア諸国の失望を招くことになるのではなかろうか。

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