契沖が書いた語学の専書には、以下の7点がある。
一、正字類音集覧 延宝4(1676)年成
二、正語仮字篇 貞享2(1685)年成
三、詞草正採鈔 貞享4(1687)年成(偽撰本の疑あり)
四、和字正韻 元禄4(1691)年設
五、和字正濫鈔 元禄6(1693)年成
六、和字正濫通妨抄 元禄10(1697)年成
七、和字正濫要略 元禄11(1698)年成
『契沖全集 第10巻』(岩波書店、1973年)に収められた、国語学者の築島裕による「解説 契沖述作の語学書について」によると、以上の7点は、内容によって類別すると、次の4類となる。
第一類 正字類音集覧……唐音(契沖当時のシナ現代語音と考えられる)によって漢字を類聚したもの
第二類 正語仮字篇・和字正韻……万葉仮名の字母を、いろは順に分類したもの
第三類 詞草正採鈔……枕詞を意義により分類したもの
第四類 和字正濫妙・和字正濫通妨抄・和字正濫要略……仮名遣いについて述べたもの
次に、『和字正濫妙』の内容について説明する。同書は、仮名遣いについての、従来の通説の濫れを正すことを目的としている。
漢文で書かれた序では、「事有れば必ず言有り、言有れば必ず事有り」と説いている。
総論の部では、行阿の仮名文字遣いの序文を引いて、定家の仮名遣いの由来を紹介した上で、それがなお混乱が多いと指摘して、日本紀以降の六国史、旧事紀、古事記、万葉集、新撰万葉集、古語拾遺、延喜式、和名抄などによって証を集め、語を五十音順に配列してその仮名遣いを示したことを述べている。
次に語音の事、梵字の事、五十音図の事、いろはの字体の事、片仮名の字体の事、いろは歌の注釈などに言及する。
本文では、「むとうとまきるゝ詞 うとむとかよふ類 みにまかふひ をと聞ゆるふ」など20項目を立て、各項ごとに、語を語末の音節に至るまでのいろは順に配列して掲出し、その下に典拠と注解とを加えている。
築島は「このような契沖の説の基盤には、古代の文献の仮名の表記法が絶対的に正しいものであって、それが末代に及んで混乱したという考が存したようである」と指摘している。