長春
淋しい長春。だが、そこに淡い愛着を感じる長春、南満の涯にこの大市街を形成して居る人々に、敬意か表す。
余の一年生当時の室長さん、川戸氏を国際運輸に訪ねる。君等がもう旅行に来たのかと驚かしたのも愈快だった。宿屋のお世話迄して戴いた上、御案内を賜る。二日滞在の后、哈爾賓へ。
ハルピン
哈爾賓の銀座キタイスカヤの夕べは、薄物をまとつた露西亜婦人に麗はしく彩どられ。夏の夜にオルゴールの微妙な音を想はせる。カチューシャも夏は斯んな服装で彼を悩殺したのだらうと考た。トルストイに似たロシア人の馬車屋が蹄鉄から火花を散しつゝ石畳のペーブメソトを走らせる。往き交ふ人の着て居るルパシカの粋に見えるのも流石に本場だ。
松花江河畔に立つた時は三カ月が出て居た。北極星も微か乍ら直上に仰がれる。北に来たなおと感じた。松花江の水は色を秘めて、漫々と流れて居る。下航する車輸船の汽笛の哀れに聞えるのも、哈爾賓の情緒を深くする哩ざ游子は感じた。(HO生)
呼海鉄道
六月十四日、さあこれからだ。今日からが本当の大旅行なんだ。ハルピンから黒河街道に出る迄は今年始めての線なので急に一同緊張して来た。荷物も殆どハルピンに残して只ー袋にした。呼倫墨黒沿線経済調査班と書いて来た袋が気になるので訓査班だけ消してしまつた。皆んなの長靴乗馬姿が良く似合う。
午後二時呼海鉄道列車の三等客におさまり返つてゐる、此の鉄道はハルピン対岸馬船ロから海倫迄昨年十二月に完成した、資本も経営も純支那だから豪気だ、駅員もボーイも仲々元気だ、規律正しい。然し此の鉄道は日本人の或る大工さんが請負つて地下数尺も氷る厳冬中に作り上げたと云う事だ、此地方は一般に低地だから勿論こうしなければ鉄道建設はむつかしい相だが。幾つかの河を越す時は橋梁に用ひてゐる大木がミシミシ云つてとても気味悪い、気車は歩く位の速力で前後左右にゆらゆらゆれる。
でも窓から眺めた畠はどこ迄もどこ迄も続いて素敵に良く開けたものだと感心させられる、数十頭の馬群牛群、それを指揮する馬上り牧人、それは或は馬賊を想はし或は遊牧の民を彷彿させる、北満気分は充分出てゐる。畜産調査の○がオホゝオホゝと喜ぶ、やれ白馬だ、やれ雌豚が何匹見えるだと。
(続きあり)