中国の思想家、黄心川氏は、アジア的価値観の意義について次のように説いている。
〈東西の倫理観には集団意識と個人主義、家族本位と個人本位、内聖外王と自己完成、理想主義と現実主義、義を重んじ利を軽んじることと利のみを図る……等々の違いがある。
東洋の倫理観は人間本位を重んじ、人間の活動を価値判断の基準とすることを強調するなどの特徴と、調和的な人間関係をもっているなどの長所を有している。しかし、専制主義であって民主的精神に欠けるという欠点もある。西洋の倫理観は現実と科学を重視し、実証性を強調するという特徴をもっているが、個人本位で、利のみを図るという欠点もある。
東洋社会の改革と発展においては、西洋の倫理モデルを踏襲することはできないし、数千年の伝統的倫理観をそのまま保持するわけにもいかない。東洋の伝統的な倫理思想の集団意識、理想主義、調和的な人間関係を広げる基礎のうえに、西洋の倫理思想のなかの科学と現実を重んずるという長所を受け入れ、伝統的な倫理思想の家族本位や専制主義などの弊害を克服し、東洋社会の改革と発展をうながすことが必要である。このことはすでに世界の多くの学者たちの共通認識となっている〉(『東洋思想の現代的意義』(本間史訳、農山漁村文化協会刊)の「二 東洋哲学の起源と発展およびその現代的変容と社会的意義」)