金子芳樹教授の指摘
マハティール前首相が1990年に提唱した東アジア経済グループ(EAEG、後にEAEC)構想は、当面の狙いとしては、東アジア各国の関係を緊密にし、先進国との通商交渉を有利に進めることを挙げていたが、単に通商問題の次元に止まるものではなく、アジア的価値観の復興と連動しており、文明史的な側面を濃厚に持つものだったのではなかろうか。独協大学の金子芳樹教授は、マハティール前首相のアジア的価値観論について論じた上で、次のように指摘している。
「大国主導の国際秩序、西欧的価値観の普遍視、価値やライフスタイルなどについて欧米が上でアジアが下という暗黙の評価基準といった、現在の国際社会の価値体系を一気にブレークスルーしたいという意図がEAEC構想の中には含まれていたのではないかと考えます」(金子芳樹「マハティールの政治哲学とEAEC構想 (特集 〔大東文化大学 国際比較政治研究所 第10回シンポジウム〕 ASEAN体験の継承と東アジア共同体) — (第2セッション:ASEAN体験の継承と東アジア共同体)」『国際比較政治研究』(15)、2006年3月、41頁)。
さらに、金子教授は、東アジア共同体のメンバーにオーストラリアとニュージーランドを入れるという日本の発想について、「コンセプトの不明確な中途半端な枠組みをつくって何ができるのか、と問いたくなるのはマハティールだけではないでしょう」「この枠組みについて説得力のある説明がなされない限り、結局のところ、可もなく不可もなく、そして実もなくに終わり、力強い歩みに発展するのは難しいのではないかと感じる次第です」(前掲42頁)と書いている。極めて重要な指摘である。