アメリカが日本政府に対し、冷戦時代にアメリカなどが研究用として日本に提供した核物質プルトニウムの返還を求めていることが、共同通信の報道で1月26日に判明した。このプルトニウムは茨城県東海村の高速炉臨界実験装置(FCA)で使う核燃料用の約300キロ。
すでに2013年5月に原子力規制委員会が、兵器級プルトニウムを生産できる高速増殖炉「もんじゅ」の使用停止命令を出していたが、2014年1月15日に同事務局は保守管理体制をさらに厳しく監視する必要があるとの報告書を規制委の定例会合に提出し、了承された。
一方、1月8日にはアメリカのシンクタンク「核脅威削減評議会(NTI)」は、日本が過去4年間、イギリス、インド、パキスタンと並びプルトニウム保有量を増加させていると懸念を表明していた。
安倍政権は、もんじゅを放棄し、このアメリカの要求に屈し、自主核武装の選択肢を放棄するのか。
以下、2009年8月に書いた「アメリカは『もんじゅ』再稼働に沈黙を保つのか? 明日のアジア望見 第78回」(『月刊マレーシア』505号、2009年8月30日)を転載する。
JR敦賀駅から車で約四十分。日本海に突き出た敦賀半島の北端に、日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」はある。平成七年に起きたナトリウム漏れ事故で運転を停止していたが、再稼働に向けた準備が着々と進んでいる。
「もんじゅ」は、発電しながら自ら燃料を生み出す「究極の原発」といわれる。原発の燃料となるウランのうち、燃えるウランは〇・七%に過ぎないが、「もんじゅ」は残りの燃えないウランを、燃えるプルトニウムに変えて燃料にできる。
ところで、兵器級プルトニウム(核兵器に用いるプルトニウム)には、プルトニウム二三九の割合が九四%以上必要とされる。一般の原子炉で作られるプルトニウムでは六〇%程度だが、「もんじゅ」では九八%以上が可能だという。高速増殖炉の炉心領域ではプルトニウム二三九の割合の低いプルトニウムが使われるが、周囲のブランケットではプルトニウム二三九の純度の高いプルトニウムが生産されるのである。
我が国は、昭和四十五年二月に核拡散防止条約(NPT)に署名、昭和五十一年六月に批准している。これにより、国際原子力機関(IAEA)による保障措置を受入れることが義務付けられている。日本ではNPT署名・批准への反対論があった。その際、アメリカは濃縮ウランの対日供給停止をちらつかせて無言の圧力をかけたとも言われている(金子熊夫『日本の核・アジアの核』朝日新聞社、平成九年、五十五頁)。
では、「もんじゅ」は兵器級プルトニウムを実際に生産していたのか。ロサンゼルス・ビアーズ大学教授の山田克哉氏は『日本は原子爆弾をつくれるのか』において、「もんじゅ」ではIAEAの査察を恐れて、わざと濃縮プルトニウムの質を落としていることも考えられると指摘している。実際、平成二十年十二月四日には、外務省の招きでIAEA理事国の理事三名(アフガニスタン、ウルグアイ、マレーシア)が「もんじゅ」を視察したが、何も問題点は指摘されなかった。これに対して、「もんじゅ」運転再開反対派は、次のように主張してきた。
「事故までの試運転期間中に「もんじゅ」は十七キログラムの兵器級プルトニウムを生産しました。運転が再開され、正常に運転できれば、毎年六十二キログラムの兵器級プルトニウムを生産します。六十二キログラムの兵器級プルトニウムから、約三十発の原爆を生産することができます。十年もすれば、中国と同規模の核兵器保有国家になることも可能です」
いずれにせよ、「もんじゅ」が潜在的に兵器級プルトニウムを生産できることは間違いない。
一方、青森県上北郡六ヶ所村弥栄平地区では、六ヶ所再処理工場が平成十八年三月に試験稼動を始め、本格操業を控えている。全国の原子力発電所で燃やされた使用済み核燃料からウランとプルトニウムを取り出す再処理工場である。
六ヶ所再処理工場について注目されるのは、アメリカの議員の過敏な反応である。試験稼働を控えた平成十八年一月二十六日、超党派核拡散防止タスクフォースの共同議長を務めるエドワード・J・マーキー議員(民主党、マサチューセッツ州)ら六人の下院議員が、六ヶ所再処理工場の試験稼働は核拡散上の懸念があるとして、中止を求める書簡を日本政府に送った。書簡は、「私たちは、核兵器利用可能なプルトニウムの抽出の継続が重大かつ不必要な脅威を国際的安全保障および核不拡散にもたらすと確信している」と主張した。
この書簡に対して、日本政府は次のように反論した。
「核燃料サイクルの推進に当たっては、利用目的のないプルトニウムを持たないという原則を踏まえて、透明性をいっそう向上させる我が国独自の原則として、電気事業者等は、アクティブ試験を前に、我が国のプルトニウム利用が厳に平和の目的に限られることについて内外の理解と信頼の一層の向上を図るため、プルトニウム利用計画を公表した。この公表内容は、原子力委員会により、プルトニウム利用の透明性の向上の観点から妥当であると判断されている。……我が国は、非核三原則を堅持し、核不拡散の観点から、厳格な核物質防護及び輸出管理規制に基づくIAEA(国際原子力機関)保障措置及び国内保障措置の厳格な適用を確保してきており、六ヶ所工場についても、平和利用を担保するための保障措置が適切に実施できることが国際的にも認められている」
しかし、マーキー議員らの書簡は、「二〇〇三年末までに日本のプルトニウム保管総量は四〇・六トンに増大したと理解している」とも指摘している。明らかに、日本の核兵器開発を牽制しているのである。
六ヶ所再処理工場が本格操業を控え、「もんじゅ」も再開を控えている。平成十七年、「もんじゅ」は運転再開に向け改造工事に着手したが、ナトリウム漏れ検出器の誤警報や耐震安全性の確認で再開が先延ばしされてきた。ようやく七月三十日に、経済産業省原子力安全・保安院が、五回目の特別保安検査(六月三~三〇日)の結果を報告、達成すべき課題は解決されているとした。今後、通常の保安検査で休眠していた施設の安全性を点検し、十一月末までに原子炉補助建物の排気筒などの耐震補強工事を終える。運転再開は平成二十二年二月か三月と見られている。
こうした中でIAEAの次期事務局長に天野之弥ウィーン国際機関代表部大使が選出された(就任は平成二十一年十二月)。これを日本核武装に対する牽制と見るむきもある。
「もんじゅ」再稼働を前に、アメリカは沈黙するのかを注視したい。
小出裕章氏は岩上安身氏によるインタビューの中で次のように語っている。
〈1988年の「日米原子力協定」によって認められたこの「核燃料サイクル」について、小出氏は「抽出したプルトニウムによって、核兵器を保有することが目的だったのでは」と指摘。「日本の核燃料サイクルは、原爆を持つためにこそ導入されたもの。しかしこれが可能だったのは、日本が米国の””属国””だったから。ところがここに来て、靖国神社への参拝など安倍政権が暴走しているので、米国は日本に対し政治的なメッセージを送ってきたのではないか」と語った。(IWJ・平山茂樹)〉
http://iwj.co.jp/wj/open/archives/123411