「TPP」カテゴリーアーカイブ

忘却された経済学─皇道経済論は資本主義を超克できるか はじめに

はじめに
平成二十二年のクリスマスの日、漫画「タイガーマスク」の主人公の名義で、群馬県の児童相談所にランドセルが届けられた。これをきっかけに、全国で続々と施設などへランドセルや文房具などを贈る人々が現れた。この間、鳥取県琴浦町では大晦日から降り続いた雪によって、車千台が国道九号線に立ち往生した。このとき、付近の住民たちは「トイレ」という看板を作って家のトイレを開放したり、ありったけの米を炊き、おにぎりを作って配って回ったりしたという。
小泉政権時代に強まった新自由主義路線により、わが国の共同体は破壊され、互いに助け合って生きていくというわが国の美風が失われたと批判されてきたことを考えると、こうしたニュースはせめてもの救いと感じられる。
新自由主義路線は一旦頓挫したかに見えたが、いま環太平洋パートナーシップ協定(TPP)をめぐって、再び息を吹き返そうとしている。TPPは、決して第一次産業に限定された問題ではなく、アメリカの「年次改革要望書」による規制緩和要求と同様に、国民生活に直結する制度変更の危険性を孕んでいる。市場の拡大、経済効率、国際基準を旗印にして、再び規制緩和が叫ばれようとしている。しかし、こうした動きに対する警戒感が強まらないのは、わが国本来の経済観自体が過去の遺物として見失われているからではなかろうか。皇道経済論の発想を理解することは、わが国本来の経済観を再認識する契機となるだろう。
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新国際経済秩序(NIEO)

グローバル企業による世界支配の動きが強まっている。TPPや国家戦略特区もその手段である。
いまこそ、各国の主権、伝統文化の維持という視点から、あるべき国際経済秩序を考えるときではないか。その際極めて示唆に富むのが、新国際経済秩序(NIEO) である。もともとNIEOは、先進国とグローバル企業の横暴に憤った途上国が結束を強め、国際経済システムの変革を求めてまとめた考え方。
1974年4月、「資源と開発に関する国連特別総会」(第6回特別総会)が開催され、「新国際経済秩序樹立に関する宣言」(Declaration on the Establishment of a New International Economic Order)と行動計画が採択された。

「新国際経済秩序樹立に関する宣言」
1、諸国家の主権の平等、全人民の自決、力による領土獲得の不承認、領土の不可分および他国の内政不干渉
2、公平を基礎とする国際共同体の全構成国の広範な協力
3、全国家が共通の関心を持っている世界的な経済問題を解決するにあたって、全国家間の平等の基礎の上に立った完全かつ効果的な参加 続きを読む 新国際経済秩序(NIEO)

岩月浩二「グローバル企業が国家を解体する」英訳 Global Corporations Will Dismantle the State

以下に『月刊日本』2014年1月号に掲載した岩月浩二先生の「グローバル企業が国家を解体する」の英訳を掲載します。
グローバル企業のための特定秘密保護法の正体を世界に発信すべきだと思います。

Global Corporations Will Dismantle the State

Koji Iwatsuki

Lawyer

The lawyer Koji Iwatsuki describes the Trans-Pacific Partnership (TPP) as an agreement that will bring about a state of investor sovereignty and a tool for global corporations to establish world dominance. He asserts that the unnatural provisions of the Act Relating to the Protection of Specific State Secrets (State Secrets Protection Act) also should be seen as part of this strategy of the United States and global corporations. Gekkan Nippon asked Iwatsuki about the horrifying designs lurking within this legislation.

A Law for the United States and Global Corporations

GN: What is the real purpose of the State Secrets Protection Act?

Koji Iwatsuki: I believe that this legislation really is a means of establishing remote control by the United States and global corporations. Japan is being hijacked by the United States and global corporations. The law is a tool by which they will have efficient control over decision making in Japan and plunder as much profit as they can from Japan’s resources. 続きを読む 岩月浩二「グローバル企業が国家を解体する」英訳 Global Corporations Will Dismantle the State

TPP交渉は空中分解

 TPP交渉の閣僚会合が2013年12月7日にシンガポールで始まったが、交渉は空中分解の様相を呈しつつある。特許期間延長や国有企業問題で、合意は不可能だからだ。
国内製薬業界の意向を受けてアメリカは新薬の特許期間延長も目指しているが、新興国はジェネリックの開発・普及が遅れるとして、特許期間延長は認めない。
「国有企業問題」で、アメリカは民間企業との対等な扱いを要求しているが、これも新興国は認めない。特に、この分野でのマレーシアの譲歩はありえない。マハティール元首相が公然と反対しているからだ。
ここで注目されるのが、交渉開始2日前の12月5日、マレーシア与党が決定した方針だ。与党UMNO総会で、総裁ナジブ・ラザク(首相)は、ブミプトラ(マレー人および先住民族の総称)支援対策の重要性を強調、5つの行動計画の一つにも、ブミプトラ経済の強化が盛り込まれたのだ。TPP交渉でのマレーシアの譲歩はない。
わが国もマレーシアの交渉姿勢を見習うべきだ。

マハティール元首相「TPPは必要ない」

 2013年12月4日、マハティール元首相は、クアラルンプール近郊でNHKのインタビューに応じ、TPP交渉を主導するアメリカの姿勢を「自分たちの価値観を押しつけようとする」と批判したうえで、「TPPは必要ない」と述べた。
 NHKの報道によると、マハティール氏は、TPP交渉で議論されている、企業が進出先の国を国際的な仲裁機関に訴えることができる仕組みや、公共事業の受注を巡り国内企業と外国企業との競争条件を緩和するルールなどを例に挙げ、「貧しい国は豊かな国に対して交渉力がなく、不平等だ」と強い懸念を示した。
 さらに、「アメリカの政策は中国に対抗するものだ。しかし、マレーシアは中国と多額の貿易を行い、良好な関係を築いている。私たちにTPPは必要ない」と述べた。

日米財界人会議共同声明、TPP「全品目の関税撤廃を」

2013年11月15日、日米財界人会議は共同声明を発表し、TPPですべての品目の関税撤廃を目指すよう求めた。
日米財界人会議を開催しているのは、日米経済協議会(Japan-U.S. Business Council)で、現在(2013年4月)以下のようなメンバーが名を連ねている。

会長 米倉弘昌 住友化学(株) 会長
日本経済団体連合会 会長
副会長 石原邦夫 東京海上日動火災保険(株) 会長
佐々木幹夫 三菱商事(株) 相談役
運営委員 長谷川閑史 経済同友会 代表幹事
武田薬品工業(株) 社長
柄澤康喜 三井住友海上火災保険(株) 社長
川村 隆 (株)日立製作所 会長
小林栄三 伊藤忠商事(株) 会長
宮原耕治 日本郵船(株) 会長
森 詳介 関西経済連合会 会長
関西電力(株) 会長
中尾浩治 テルモ(株) 会長
野路國夫 (株)小松製作所 会長
岡村 正 日本商工会議所 会頭
(株)東芝 相談役
奥 正之 (株)三井住友フィナンシャルグループ 会長
小野寺正 KDDI(株) 会長
佐藤正敏 (株)損害保険ジャパン 会長
佐藤義雄 住友生命保険(相) 社長
下村節宏 三菱電機(株) 会長
豊田章男 トヨタ自動車(株) 社長
槍田松瑩 日本貿易会 会長
三井物産㈱ 会長
矢野 薫 日本電気(株) 会長
顧問
勝俣宣夫 日本貿易会 前会長
丸紅(株) 取締役相談役
小林陽太郎 日米経済協議会 元会長
槙原 稔 日米経済協議会 元会長
三菱商事(株) 特別顧問
御手洗冨士夫 日本経済団体連合会 前会長
キヤノン㈱ 会長兼社長
西室泰三 日米経済協議会 元会長
(株)東芝 相談役
桜井正光 経済同友会 前代表幹事
㈱リコー 特別顧問
下妻 博 関西経済連合会 前会長
新日鐵住金㈱ 相談役
氏家純一 日米経済協議会 前会長
野村ホールディングス(株) 常任顧問
監事 前田晃伸 ㈱みずほフィナンシャルグループ 名誉顧問
斎藤勝利 第一生命保険(株) 会長

TPP、年内妥結は無理か?

 『日本農業新聞』(2013年10月26日)の報道によると、マレーシアのジャヤシリ首席交渉官は、同国訪問中のJAグループ代表団との会談(10月24日)で、TPP年内妥結について「まだ多くの課題があり、各国の国内手続きも残っている。年内に交渉を終了させるのは非現実的で、こだわるべきではない」と述べた。
ジャヤシリ氏は、知的財産分野での対立について「現時点でテーブルに出ている内容は受け入れることができない」と強調。「どの国も懸念していることがある。それにきちんと対処できる方法を交渉して見つけ出す。この交渉を成功で終わらせるためには柔軟性が重要だ」とも述べたという。

TPP─「大筋合意」という宣伝

 TPPについて、新聞が「大筋合意」という言葉を用いて報じることが増えてきている。この言葉は、着々と合意に進んでいることを宣伝するための表現なのだろうか。
 「大筋」を辞書で引くと「物事の内容のだいたいのところ、また、基本的なところ。あらまし。大略」とある。つまり、大筋合意とは、細部は別として、基本的な所ではすべて合意するということだろう。
 しかし、TPP交渉は、現状では、国有企業への優遇措置をどうするか、著作権の保護期間をどうするか──などで、基本的な合意に達していません。
 驚くべきことに、『産経新聞』の本田誠記者が「大筋合意は最終的に一部分野のみとなる見込みだ」(2013年10月3日付)と書いている。一部分野のみの合意が、なぜ「大筋合意」なのだろうか。
 マスコミが「大筋合意」という言葉に、いかにこだわっているかを示している。