「魂が楽器を通じて語りかける」
神秘主義思想家たちは、楽器に関して特別の観念を抱いている。スーフィーとして知られたハズラト・イナーヤト・ハーン(Hazrat Inayat Khan)もまた、『音の神秘―生命は音楽を奏でる』(平河出版社、1998年)で、独自の楽器観を示している。 彼は、1882年北インド、バローダの高名な音楽家の末裔として生まれた。祖父の創設したインドで最初の音楽学院で学び、インド全土でヴィーナー奏者、歌手として活躍した。 さて、ハーンは1903年、21歳のときにハイダラーバードで出会ったスーフィー、マダーニーのもとで修行を積み、1914年以降、ロンドンでスーフィー・ムーブメントの母体を形成した。その後、ヨーロッパ各地でスーフィー・センターを設けている。1926年にインドに戻り、翌1927年にデリーで亡くなった。 |
ハーンは、『音の神秘』で次のように書いている。
「ヴィーナーは特に波動を集中させるように作られていて、時に演奏者にしか聴こえないような微かな音を発するため。瞑想に用いられます。器楽の効果は、楽器を奏する指先に表れる演奏者の進化の度合いにも左右されます。いいかえれば彼の魂が楽器を通じて語りかけるのです。演奏者の心の状態は彼がちょっと楽器に触れただけで読みとれます。どんなに偉大な名手であっても、自分の内なる感情を育てずに、単なる技巧だけでは心を引きつける美しさや優雅さは生み出せないからです。フルートやアルゴーザーのような気鳴楽器は、とりわけ心の質を表します。それらが生命そのものである呼吸を用いて演奏されるからです。それゆえ、気鳴楽器は心の火をかきたてるのです。かつては心をもった生きものから作られているため、腸弦楽器には生き生きとした効果があります。鋼線の張られた弦楽器には、わくわくさせる効果があります。また太鼓のような打楽器は人を刺激したり元気づけたりする効果があります」(190~192頁)