『大日』社説「皇道大理想實現」(昭和9年)

皇道大理想實現
日本は神ながらの道によつて國を立つ。神ながらの道は、天地の公道である。大自然の大道である。原則である。秩序である。生命である。活動である。神ながらの道に隨つて動く所、茲に眞の自由がある。完全なる獨立がある。此の自由、此の獨立は、天地の公道に合體し、大自然の秩序と生命と活動とに合體せる自由であり獨立である。此間の自由獨立の眞髓を體得して、茲に、始めて、完全なる道徳宗教哲學藝術の極到に逹し、人類最高文化の原則を完現するに至る。孟子が、浩然の氣を唱へ、至大至剛、天地の間に塞ると説いたのは、聊か我が神ながらの道に基づく自由の境地を説かんと試みたものに近い。而かも、此の自由なるものゝ眞意を一歩誤る時は、恐るべき大害を及ぼす。眞の自由は、本來天地の公道、大自然の秩序、生命、活動の發現の力であると共に、正しく發する時は、大宇宙の運行に參與し、人類生活の本源の力となるが、苟くも、其の發現に過ちあらば、天地の活動を害し、人類生活の恐るべき禍根となる。此の過ちに陷つたものが、即ち、西洋流の自由主義である。現に、我が日本に於ても、此の誤れる自由思想の中毒に陷り、國家の賊となり、社會の害蟲となり、人倫の敵となり、自ら自己の運命を暗黒にし、世に詛はれ世に斥けられ、闇慘たる地獄界に身を墮したるものが徃々ある。近時、此の墮落漢が、社會の諸方面に、相次いで出沒する觀がある。國を害するものは此の墮落の徒である。人類生活を賊するものは、此の自由錯覺の徒である。
(社説「皇道大理想實現」『大日』第70号、昭和9年元旦、10頁)。

坪内隆彦