人類文明と儒家─杜維明の志

 杜維明については以前に「杜維明の思想」で言及したが、中村俊也氏は『新儒家論―杜維明研究』において、以下のように結論づけている。

 
 〈杜維明は、論著における結論として次のように述べる。それは、「共同して奮闘し、共同して価値を創造する」という観点の導く方向である。(三九五─一〇)
 「西洋文明が突出しているところは、まさしく、中国の伝統、儒家を以つて特色とする文明が有しないところにある。彼等の法律、個人主義、科学技術……これらはすべて、私達が学ばなければならない。しかし、百五十年以来、この文明は今度は私達の文化伝統となった。この文化伝統は、私達をして自己の伝統文化に対し断絶せしめた。(三九五─一一)
 杜維明は、西洋化一辺倒に明確に反対する。では、ついにどの方向に向かおうとするのか。
 「現在、私達は、西洋文明を接受して、西洋文明の一部と化した。この道を歩いてゆき、このままゆけば、みな尽滅してしまう。この状況下においては、西洋の学者と一緒になって、人類文明の大いなる前途に対し、反思(=反省思考)を行ない、この段階において私達自身の無尽蔵を発見する。そこに非常に切実な現実的意義が存する。それは、簡単に西洋を批評して自からの狭溢なる民族主義を発揚することでもなく、また、西洋を大事にして自からの無尽蔵を放棄することでもない。複雑な現代文明の挑戦する課題の下、私達自身の伝統資源について新たにそれを体現し発掘するのである。この任務はとても巨大である。私は、みんなで一緒に勉めようと思う。」 (三九五-一四)
 東アジア世界を蓋い尽くしている西洋文明、現代化の下で、現在の全人類的、地球規模的課題の下、文化伝統、儒家伝統の中から、叡智を身を以つて汲み出し人類の発展に資する、というのが「杜維明の課題」である、と言える〉

坪内隆彦