『月刊日本』平成26年5月号に掲載された武藤貴也「わが国は核武装するしかない」を転載します。
憲法解釈の変更ではなく、「解釈の是正」だ!
── 集団的自衛権の行使についてどう考えていますか。
武藤 私は、集団的自衛権は国家の当然の権利だと思っています。それは世界の国際法学界の常識です。国連憲章第51条には「固有の権利(inherent right)」と書いてあり、フランス語や中国語では「自然権」と表現されています。
自然権とは、憲法や法律では制限できない、国家が生まれながらにして持つ生来の権利です。それを今まで憲法が禁じてきたこと事態が異常だったのです。つまり、「憲法解釈の変更」ではなく、「解釈の是正」なのです。
集団的自衛権を「行使しない」のと「行使できない」のとは、本来別の話です。行使できるにもかかわらず、政策判断として、行使しないというのならまだわかるのですが、これまでの内閣法制局の態度は、「しない」を「できない」とすり替えて答弁してきました。
── ただ、自民党の中にも慎重論があります。
武藤 慎重論があることは否定しません。集団的自衛権を行使できないという政治家の意見に添って国際法学者が理論づけしているのか、逆に国際法学者の議論に影響を受けて政治家が発言しているのか、どちらかわかりませんが、彼らの議論が世界の常識からかけ離れたものであることは事実です。
これまで、集団的自衛権を行使できなかったために、わが国の国益は損なわれてきました。日本は日米同盟だけではなく、タイなどのアジア諸国と同盟関係を結べるチャンスがあったのです。しかし、集団的自衛権を行使できなければ、一方的に日本が同盟国から守ってもらうことになってしまいます。そうした片務的な状態では同盟の体をなしません。
わが国は自主核武装するしかない
── 日米同盟に依存した防衛政策について、どう考えていますか。
武藤 いざとなったら、アメリカは日本を守らないと思っています。たとえ小規模な局地戦争でも一度戦端が開かれれば、戦争はエスカレートしていく可能性があります。大規模な戦争になれば、最後は核の使用にまで発展してしまうかもしれません。だから核武装国家同士は、戦争できないのです。
いま中国は、尖閣諸島周辺で領海侵犯を繰り返しています。何のためにそんなことを繰り返しているのか。既成事実を積み重ねているのです。「尖閣に日本の施政権が及んでいない」という状況を作ろうとしているのです。
日米安全保障条約第5条発動の要件は「施政の下にある領域における武力攻撃」と定められています。尖閣について、アメリカは「領有権については特定の立場をとらないが、日本は実効的な施政権を維持している」との立場をとってはいたわけですが、中国による領海侵犯の積み重ねによって、「尖閣に日本の実効的な施政権は及んでいない」とアメリカが解釈する恐れがあるということです。
日本政府は「力による現状変更」は認めないと主張していますが、中国は力ではなく、少しずつゆっくりと蝕み、実質的に現状変更を進めているのです。度重なる警告にもかかわらず領海侵犯してきたら、わが国は実力でそれを排除すべきなのです。
── しかし、尖閣で紛争になれば、日米安保は発動されないかもしれない。しかも、核保有をしている中国と単独で戦争することは難しい。
武藤 だからこそ、日本は自力で国を守れるように自主核武装を急ぐべきなのです。日本の核武装反対論は、論理ではなく感情的なものです。かつて広島、長崎に原爆を落とされた国として核兵器を許さないという心情的レベルで反核運動が展開されてきたのです。しかし、中国の台頭、アメリカの衰退という国際情勢の変化に対応して、いまこそ日本の核武装について、政治家が冷静な議論を開始する必要があると思っています。
核武装のコストについては様々な試算がありますが、私は安上がりな兵器だと考えています。何より、核の抑止力によって戦争を抑止することができます。核武装国家同士は戦争できないからです。
米中の利害が一致した日本に対する核物質返還要求
── ところが、核武装についての議論すら許されてきませんでした。
武藤 小渕内閣時代の1999年10月に防衛政務次官に就任した西村眞悟氏は「核武装の是非について、国会で議論しよう」と述べて、辞任に追い込まれました。中川昭一氏も非核三原則見直し論議や核武装論議を提起しましたが、誰も彼に同調しようとしませんでした。
── 親米保守派は、日本の軍事力強化を唱えても、日本の核武装には反対しています。
武藤 冷戦時代、特にアメリカがスーパーパワーだった時代には、日米同盟に依存するという親米保守派の論理には説得力がありました。しかし、もはやその時代は終わりました。にもかかわらず、優秀なアングロ・サクソンの傘下に入っていれば間違いないと言い続けることは、もはや論理ではなく信仰です。
── アメリカが研究用に提供した、東海村の「日本原子力研究開発機構」の高速炉臨界実験装置(FCA)で使用されている高濃縮ウランと分離プルトニウムを返還するようアメリカは要求し、日本政府は核セキュリティ・サミットでその処分に合意しました。単純計算で核兵器40~50発分とも報じられています。これは日本の核武装への牽制にも見えます。
武藤 そうだと思いますね。オバマ政権は日本の核武装を警戒しています。だからこそ、アメリカは日本に強く返還を要求してきたのです。看過できないのは、アメリカに合わせて、中国が「日本国内に兵器転用可能な核物質が大量に存在することは、核不拡散に対するリスクだ」としきりに批判したことです。米中が連携して日本の核武装阻止に動いているとしか見えません。
FCAの核物質を全量撤去し処分することを表明した日米共同声明について、オバマ大統領は、このサミット全体における最大の成果だと称えましたが、非常に情けない話です。私は、今回の返還は、成果どころか日本の国益を損ねたと考えています。
この問題について文部科学省に尋ねたところ、文科省としては返還したくないという考え方でした。にもかかわらず返還が決まった。その背景にはアメリカからの強い圧力があったと見るべきです。また、外務省にも聞きました。彼らは「中国が日本を批判してくる材料をつぶせます」といった言い方をするのです。呆れてしまいました。
アメリカにも日本核武装の支持者はいる
── 日本の核武装をアメリカに理解させることはできるでしょうか。
武藤 アメリカの権力層が日本に対する警戒感を持っていることは否定できません。冷戦終結前後から、アメリカ政府には日独に対する警戒感が高まりました。エドワード・スノーデンの暴露によって、アメリカの情報機関がドイツのメルケル首相の携帯電話を盗聴していたことが明らかになりましたが、スノーデンはかつて日本にいたわけです。そのとき彼が何をしていたかは、容易に想像がつきます。
しかし、アメリカの政治家の中にも日本の論理を理解してくれる人はいます。例えば、共和党のマルコ・ルビオ上院議員は北朝鮮の核武装にどう対応するかが議論になった際、中国に北朝鮮の核武装を阻止させるには日本の核武装論議が有効だと語っています。
また、共和党政権で国務次官や国連大使を務めたジョン・ボルトン氏も日本の核武装を支持しています。また、ケネス・ウォルツ氏ら、アメリカの核戦略家や国際政治学者の中には、日本の核武装を支持している人も少なくありません。アメリカ政府を説得するためには、こうしたアメリカの専門化の理論に基づいて説明するのが効果的だと思います。
── 核武装に至る道筋をどのように考えていますか。
武藤 まず言論界が核武装論を提起することが地ならしになると思います。『黒船待ちの日本』や『さらば吉田茂』を著した片岡鉄哉氏は日本核武装の理論化において、先駆的な役割を果たしたと評価しています。現在でも、西部邁氏、伊藤貫氏、日下公人氏ら、わずかながら日本の核武装を主張している論客はいます。しかし、この分野を専攻する東大、京大の学者に核武装を主張している人は一人もいないのが残念です。
まずは、核武装について議論をする有識者会議を作って議論を開始すべきです。国会が終わったら、私は渡米してマルコ・ルビオ上院議員らアメリカの議員と会って議論したいと思っています。日本に残された時間は決して多くはないのです。