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アジア通貨危機報道・15年目の真実─読売新聞・林田裕章記者の報道を振り返る

いまから15年前の1997年、タイのバーツ下落に端を発したアジア通貨危機によって、マレーシア経済も苦境に陥った。このときマハティール首相は、通貨下落の引き金を引いたヘッジファンドなど投機家筋を厳しく批判するだけではなく、通貨取引規制を断行し、自国経済を死守した。後年、マハティール首相の採った政策は、世界のエコノミストの間でも評価された。
ところが当時、投機家筋サイドに立った欧米のメディアだけではなく、日本のマスメディアもその尻馬に乗って、マハティール首相を執拗に攻撃していた。特に顕著だった読売新聞シンガポール特派員の林田裕章記者の報道を振り返り、その意図について改めて考察する材料としたい。

①マレーシア孤立の危機 欧米敵視の株価策裏目 ASEM巡り東南アに亀裂
『読売新聞』1997年9月5日付朝刊、6面
【シンガポール4日=林田裕章】マレーシアが外交・経済両面で孤立の危機に陥っている。欧米の投機筋を締め出すための株式市場規制策が裏目に出て、株価下落に歯止めがかからないほか、来年四月のアジア欧州会議(ASEM)へのミャンマー参加問題をめぐっても、他の東南アジア諸国連合(ASEAN)各国との亀裂が表面化した。
七月のタイ・バーツ暴落をきっかけにした東南アジアの経済不安が続く中、マハティール首相は三日、株価の急落に対抗するため、優先的に国内投資家から株式を買い入れる目的で、六百億マレーシア・ドル(約二兆四千七百億円)にも上る基金を設置する方針を明らかにしたが、この際、「外国からの資金に頼る必要はない。問題はわれわれの力で解決できる」と述べ、欧米への敵意をあらわにした。
しかし、この基金設置政策については、欧米の機関投資家の間から、「マレーシアの国際市場での信用を落とすだけだろう」との反応が続出しているほか、フィリピンのデオカンポ蔵相も三日、「マレーシアの政策は害はあっても益はない。外国からの投資の冷え込みが長期間にわたることさえあろう」と語った。
実際、四日のクアラルンプール株式市場は一時一〇%近くの暴落となり、三日に外国投資への規制緩和など、マレーシアと反対の経済政策を発表したインドネシア・ジャカルタ市場と、明暗を分けた。
一方、ロンドンで開かれるASEM第二回首脳会議へのミャンマー参加をめぐって、クック英外相が一日、訪問先のシンガポールで「人権侵害の続くミャンマーの参加は認められない」と述べたことに対し、マハティール首相は、「ミャンマーへの差別はASEANへの差別だ。ミャンマーの参加が認められなければ、ASEANは首脳会議をボイコットすることになりかねない」と語った。
しかし、英国がミャンマーを拒否するだろうことは、ASEANにとっては織り込み済みで、インドネシアのアラタス外相は三日、「ASEMへの参加は国家単位のものであって、欧州連合(EU)との会合ではない」と指摘、先走るマレーシアにクギを差した。 続きを読む アジア通貨危機報道・15年目の真実─読売新聞・林田裕章記者の報道を振り返る

ランカウイのペルダナ美術館

ギフトを国民と分かち合う
 1981年の就任以来、マハティール首相は確固たる外交路線を定め、意欲的に世界を飛び回ってきた。当然、外遊時にはマハティール夫妻に各国要人や関係者等から多くの記念品やギフトを贈られる。
 だが、マハティール首相はそうしたギフトが自分に贈られたのではなく、マレーシア国民に贈られたのだという認識を持っている。だからこそ、それらを個人の所有物にするのではなく、マレーシア国家のものとして国民と共有したいと願っているのである。こうしたマハティール夫妻の強い願いによって誕生したのが、ペルダナ美術館(Galeria Perdana)である。ペルダナ美術館のパンフレットには、「ギフトを人々と分かち合うために設立された」と謳われている。設置されたのは、マハティール首相ゆかりの地ランカウイ。
 2002年7月、筆者はペルダナ美術館を訪れた。モスク風の天井の美しいステンド・グラスが目を引く。美術館は現在2階建てで、総面積5332平方メートル。ゆっくり回れば約2時間はかかる。木製や皮革製の伝統工芸品、人形、織物、塗り物、毛皮、金・銀・銅・鉄・ピューター製の贈物などがきれいに陳列されている。外国からだけでなくマレーシア各州要人からのギフトも展示されており、その数は5000点を越える。

天皇陛下からの贈り物も
 中央アジア諸国からの毛皮の衣服や日本のよろい兜なども展示されている。ほとんどのギフトは、贈られた国と時期だけで、贈り主の表示はないが、いくつかには贈り主が表示されている。その中に、旭日大綬章に合わせ、1991年9月30日に天皇陛下から贈られた銀製の花瓶と写真立てがある。また、橋本首相(当時)が贈ったも木製の箱も展示されている。日本との関係では、三菱自動車工業のディアマンテのほか、いすゞやダイハツの自動車も展示されている。
 
 東アジア、イスラーム諸国、非同盟諸国重視というマハティール首相の外交路線を反映してか、首相の外遊先はアジア・アフリカが多い。そのため、贈り物もそれら地域からのものが多いという印象を受けた。日本、中国、韓国、東南アジアの周辺国、イランなどのイスラーム圏、ジンバブエなどのアフリカ諸国からの伝統工芸が多くを占める。まさに、ペルダナは、アジア・アフリカ伝統美術館とも呼びうるわけで、多くのマレーシア人学生も、アジア伝統文化にふれるために美術館を訪れる。美術館側はいずれ、国やテーマ別の特別展示なども企画したいとしている。
 また、美術館には、マハティール夫妻の若い頃の写真や肖像画も展示されており、入り口近くにはボールペンやTシャツなどの記念品を扱ったお土産屋もある。

サドルを読む─イスラーム経済論

 

イスラーム経済論

ムハンマド・バーキルッ=サドル
(http://www.ummah.org.uk/Rahmat/person.htmより)
ムハンマド・バーキルッ=サドル
 ムハンマド・バーキルッ=サドル(Muhammad Baqir as-Sadr)は1935年、イラクのバグダッドで生まれた。早くも10歳のときに、イスラームの歴史のレクチャーしはじめ、11歳で論理学の勉強を開始したと語りつがれている。このように驚くべき早熟で、20代半ばにして、すでに学者としての地位を確立した。
Iqtisad-naのほか、イスラーム哲学、イスラーム法学をはじめ、論理学、政治学、社会学と極めて幅広い学術的成果を残した。
サドルは、イランのホメイニとならぶシーア派の指導者としても活躍し、革命後のイラン経済に、サドルの経済論は取り入れられた。だが1980年、敵対するバース党のフセイン政権によって処刑され、45年の短い生涯を閉じた。
 イスラーム金融システムは、イスラーム経済の一側面に過ぎない。それは、イスラーム経済全体の中で位置づけられる必要があるのだ。
ところで、国際金融システムの限界に直面し、資本主義システムの問題点が改めて指摘されるようになっている。すでに、物質至上主義による精神的退廃・人間性の喪失、各国内部における経済格差、国家間の経済格差(南北問題)、自然環境破壊といった問題が指摘されて久しい。マルクス主義は、資本主義の問題を鋭く指摘したが、実際のマルクス主義経済体制は別の弊害を生み出した。こうした中で、イスラーム経済論の果たす役割は小さくないと指摘されている。
ところが、イスラーム経済論は日本には未だあまり紹介されておらず、日本語で読める体系的イスラーム論は限られている。
黒田寿郎教授によるムハンマド・バーキルッ=サドルの著作の邦訳が、体系的なイスラーム経済論の日本語テキストの唯一のものとも言われている。
ここでは、サドルの『イクティサードナー』(Iqtisad-na)の邦訳『イスラーム経済論』(未知谷)をもとに、イスラーム経済論のポイントについて紹介しておきたい。 続きを読む サドルを読む─イスラーム経済論

プトラジャヤ宣言全文

PUTRAJAYA DECLARATION ON KNOWLEDGE AND MORALITY FOR THE UNITY, DIGNITY AND PROGRESS OF THE UMMAH THE 10TH SESSION OF THE ISLAMIC SUMMIT CONFERENCE PUTRAJAYA, MALAYSIA 11 -18 OCTOBER 2003
We, the Kings, Heads of State and Government of the Member States of the Organization of Islamic Conference (OIC), gathered at the 10th Session of the Islamic Summit Conference in Putrajaya, Malaysia on 16 – 18 October 2003, reaffirm our commitment and enduring faith in and adherence to the Purposes, Objectives and Principles of the Organization, as enshrined in its Charter, in our continuing efforts to promote Islamic unity, solidarity and dignity at a time of great challenge to the Ummah.
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ディナールに関するマハティール首相の演説⑤

Dr M: Look at All Ideas Including Islamic Finance

New Straits Times, November 20, 2008

By Presenna Nambiar

THE world should not dismiss any idea, even that of adopting Islamic banking, in the process of trying to solve the systemic collapse of the global banking system, says former premier Tun Dr Mahathir Mohamad.
“We should examine all ideas, including how Islamic banking can help, not taken fully perhaps, but how it can be adopted and adapted, to create a better, more just system not so open to abuses,” he said.
In his special address to delegates of the two day Islamic insurance conference, Dr Mahathir called the US$700 billion ( RM2.5 trillion) bailout by the US government as mere patchwork and that a new financial system needs to be introduced to replace the current one, which gave so much leeway to banks. 続きを読む ディナールに関するマハティール首相の演説⑤

「音のパワー」─田中逸平の仏教感

音のパワー

 映画「あつもの」で平成一二(二〇〇〇)年の毎日映画コンクール助演男優賞を受賞するなど、俳優としても国際的活躍を続けているヨシ笈田は、演出家としても名高い。平成一〇(一九九八)年には、初のオペラ演出にも挑戦している。彼は、南フランスのエクス・アン・プロヴァンス音楽祭でベンジャミン・ブリテンのオペラ「カーリュー・リバー」を演出、聴衆に「魂の底まで貫き通す感動」を与えたという。
音楽ジャーナリストの下田季美子氏のレポートによると、笈田はまず、無名の若い歌手たちを起用、無国籍的な舞台を設定し、文化的背景の異なる歌手たちに「音のパワー」について多く語った。笈田は言霊に興味を持ち、真言密教の声明、念仏、神道の祝詞などで体験されるような音による精神世界への到達をもくろんだのである。下田氏は、笈田の試みを「日本的な精神性をヨーロッパの文化的土壌の中で普遍化した」ものだともいう(1)。この事実は、音のパワーが、民族、宗教を超えて普遍的な感動を与えることを示しているのではなかろうか。 続きを読む 「音のパワー」─田中逸平の仏教感

イスラーム金融システム

 

 「誠実、公平、相互扶助を重視し、利子を認めない」。在来金融の常識を破るイスラーム金融に将来はあるか!?

投機とイスラーム
イスラーム銀行とは、欧米先進国の経済学に則った銀行と異なり、イスラームの経済思想に基づいて運営される銀行のこと。
イスラームが独特の経済思想を持っていることは良く知られている。誠実、公平、相互扶助が重んじらるイスラームでは、リバー(利子)が禁じられ、ズルム(不平等)をなくす努力をすべきことを期待されている。貧者の救済のために、ザカート(義務としての喜捨)が義務づけられ、サダカート(自発的な喜捨)が奨励されている。
ムスリムが行うラマダン(断食)の背景は単純ではないが、「貧しくて食べるに事欠く人々の気持ちを分かち合う」ことが意図されているともいわれる。ラマダン中には、バクシーシ(チップ)もはずむし、断食明けのお祭りではザカートを配って歩くことになっている。
そもそも、富や財に関してイスラームは特別な考え方をもっている。イスラームでは、所有は本来の権利ではなく、神の代理人となる試みなのである。 続きを読む イスラーム金融システム

イスラーム経済論関連書籍

関連書籍類

著者 書籍写真 書名 出版社 出版年 備考
吉田悦章 イスラム金融入門 東洋経済新報社 2007年
糠谷英輝 拡大するイスラーム金融 蒼天社出版 2007年
中沢新一 緑の資本論 緑の資本論 集英社 2002年
黒田美代子 商人たちの共和国―世界最古のスーク、アレッポ 藤原書店 1995年
ムハンマド・バーキルッ=サドル著、黒田寿郎、岩井聡訳 無利子銀行論 未知谷 1994年   続きを読む イスラーム経済論関連書籍

マレーシア国際イスラーム大学

拓殖大学の提携校
2001年6月、私はマレーシア国際イスラーム大学(IIUM)を訪れた。クアラルンプール市街地を抜け、北に向かって約20分車を走らせると、ゴンバック地区に着く。豊かな自然の残るこの地区は、ほとんどがマレー系住民の居住区である。この地区に、イスラーム教育の拠点IIUMのメイン・キャンパスはある。敷地面積287ヘクタールという規模の大きさに、まず驚いた。
車でキャンパス全体を見て回った。校舎は、男女別になっており、立派な総合競技場も設けられている。どの校舎の屋根も薄いブルーを基調とした落ち着いた色で、本館校舎に併設されたモスクからは、ひときわ厳かな雰囲気が伝わってくる。 続きを読む マレーシア国際イスラーム大学