東南アジア料理論①

魚 醤
ナンプラ(1日目)

 世界の三大スープの一つといわれるタイのトムヤンクンは、ナンプラ(Nam plaa)抜きでは作れない。タイのチャーハン、「カオ・パット」の隠し味にも、ナンプラは欠かせない。
ナンプラというのは、魚介類から作った魚醤のことである。魚介類を塩漬けして発酵、熟成させ、染み出した液から作る。使われる魚は主にアンチョビー、つまりカタクチイワシである。ただ、乱獲によって激減してしまい、水揚げ量にも限界があるため、近年ではほかの魚種を混合したものが多くなってきている。
ナンプラー(西武池袋店地下2階)

ナンプラー(西武池袋店地下2階)

実は魚醤は、タイのみならず、ベトナム、フィリピン、ミャンマー、カンボジア、ラオスなど、東南アジアでは広く使われている。ベトナムではニョクマムという。例えば、ベトナムのライスペーパー(生春巻き)には、ニョクマムに、レモン汁、砂糖を混ぜて作ったヌクチャムというタレをつけて食べる。
フィリピンの魚醤はパティス(Patis)である。例えば、ティノラン・マノック(Tinolang Manok)。この鶏肉のスープ煮には、ショウガやニンニクを入れるが、パティスで味を整える必要がある。
まさに、東南アジアでは魚醤があらゆる料理に使える万能の調味料なのである。ミャンマーにはンガンピャーイェー(Nganpyaye)、カンボジアにはトゥック・トレイ(Tuk trey)、ラオスにはナム・パー(Nam paa)がある。東南アジアだけでなく、中国にも南の方では「魚露」(ユィルー)という魚醤がある。日本では一般的に魚醤はあまり使われなくなっているが、秋田の「しょっつる」、石川の「いしる」、香川の「いかなごしょうゆ」などが、今も使われている。
高温湿潤な東南アジアでは、醗酵の制御が容易ではないために、穀物と大豆に麹を作用させた醗酵性の調味料は発展せず、魚醤がいまも調味料の主役でいると考えられる。
いずれにせよ、魚醤は東アジア共通の調味料といっていい。ただ、それぞれの民族と風土によって独自の展開を辿った。例えば、ナンプラとニョクマムを比較するとニョクマムの方が魚の匂いが強い。塩加減はナンプラの方が強い。ラオスやタイの北部では、川魚による魚醤が多い。各国の魚醤の味を比べるのはとても楽しい。

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