佐々木実氏「国家戦略特区は『1%が99%を支配するための政治装置』だ」

『日刊ゲンダイ』(2014年1月21日付)「構造改革派が支配 竹中平蔵が牛耳る『国家戦略特区』の実態」に、佐々木実氏のコメントが載っている。以下、『月刊日本』2月号に掲載された佐々木氏インタビュー記事の一部を転載する。

〈いよいよ今年から国家戦略特区が動き出します。『市場と権力』(講談社)で竹中平蔵氏の実像に迫ったは、特区法の成立と特区諮問会議の設置によって構造改革派が政策決定を牛耳る仕組みができあがってしまったと警鐘を鳴らしています。特区の危険性について、佐々木氏に聞きました。

竹中平蔵氏の復活が意味するもの
── 国家戦略特区諮問会議の民間議員に竹中平蔵氏が就任しました。
佐々木 特区を実質的に主導してきたのが竹中氏であることは明白です。特区構想は、2013年5月10日に開催された「第1回国家戦略特区ワーキンググループ」から本格的に動き始めましたが、その1カ月ほど前の4月17日の産業競争力会議で、竹中氏が「立地競争力の強化に向けて」と題するペーパーを用意しました。そこには、「経済成長に直結する『アベノミクス戦略特区』(仮称)の推進」が打ち出されていたのです。
新藤義孝・地域活性化担当大臣が5月10日の会合のために用意した「世界で一番ビジネスのしやすい環境をつくる」というペーパーは、まさに竹中氏の主張に基づくものだったのです。新藤氏は、これまでとは次元の違う特区を創設し、総理主導の下、強力な実行体制を構築すると明記し、総理を長とし、民間有識者が参画する諮問会議の設置などを提案したのです。しかも、新藤氏が用意した資料には、参考として竹中氏の「アベノミクス戦略特区」構想がわざわざ添付されていたのです。
特区構想は、竹中グループによって着々と進められてきました。ワーキンググループ委員になった元通産官僚の原英史氏は、2007年に安倍晋三、福田康夫両内閣で渡辺喜美行政改革担当大臣の補佐官を務めていた人物です。2009年に退官して、竹中氏のブレーンである高橋洋一氏とともに株式会社政策工房を設立しました。原氏は、自ら竹中氏のサポート役をしていると語っています。ちなみに、竹中氏、原氏、高橋氏は日本維新の会代表の橋下徹大阪市長を支援していました。
── 国家戦略特区諮問会議は、小泉政権時代に竹中氏が主導した経済財政諮問会議のイメージともダブります。
佐々木 特区諮問会議の法律上の位置づけの高さに注目する必要があります。内閣府には、重要政策に関して各行政機関が統一的な施策を行うために必要な企画・立案・総合調整に資することを目的として、重要政策会議が置かれています。極めて格付けの高い会議であり、そこに含まれるのは、経済財政諮問会議、総合科学技術会議、中央防災会議、男女共同参画会議のわずか四つの会議だけです。12月7日に国家戦略特区法が成立し、新たに特区諮問会議が重要政策会議に加わることになったのです。
── 特区というと、限定的な地域で、しかも時限的に行われるというイメージがありますが、国家戦略特区諮問会議は恒久的な会議となりうる。
佐々木 その通りです。産業競争力会議は、法的にはそれほど位置づけの高い会議ではありません。これに対して特区諮問会議は極めて重要な会議として法的に裏づけられたのです。格が違うということです。
第二次安倍政権発足当初、安倍首相は、竹中氏を経済財政諮問会議のメンバーに起用しようとしましたが、麻生太郎副総理らの反対で実現せず、産業競争力会議の議員に就きました。竹中氏は産業競争力会議を拠点にして特区構想を進め、ついに経済財政諮問会議と同格の特区諮問会議の議員に就いたわけです。竹中氏の巻き返しは見事に成功しました。

グローバル企業と構造改革派が重要政策を牛耳る時代
── 特区諮問会議という器ができたこと自体が、大問題です。
佐々木 器さえできれば、ここにいろんなものを入れていけばいい。あらゆる規制改革が強力な権限によって推進されるお膳立てが整ったということです。竹中氏が担当大臣として指揮をとっていた時期の経済財政諮問会議がどのように動いていたかを見れば、特区諮問会議の動きも予測できます。要するに、担当省の大臣が反対しようが、会議で多数決を握れば勝ちだという発想です。民間議員が必ず同じ主張をして、多数を確保するというやり方です。
しかも、諮問会議議員に関して、特区法は驚くべきことを謳っている。第33条には、議員になれる者の条件として、内閣官房長官、特区担当大臣、首相が指定する国務大臣のほかに、「経済社会の構造改革の推進による産業の国際競争力の強化又は国際的な経済活動の拠点の形成に関し優れた識見を有する者」と定めているのです。要するに、構造改革派しか民間議員になれないということです。本来、国家の重要問題を審議する諮問会議メンバーは多様な構成であるべきです。
議論は、最初から構造改革推進にしか向かわないようになっているのです。今回、諮問会議の民間議員には、竹中氏とともに坂根正弘コマツ相談役、秋池玲子ボストンコンサルティンググループパートナー、坂村健東大教授、八田達夫大阪大招聘教授が選ばれましたが、こうした視点からこの構成メンバーの動きを注視していく必要があります。
── 10月21日の衆院予算委員会で、自民党の塩崎恭久・政調会長代理は、特区諮問会議に「抵抗大臣」になるかもしれない担当大臣を呼ぶのかと質問しました。これに対して、安倍首相は担当大臣を意思決定から外す方針を表明しています。
佐々木 まさに、国の重要政策を構造改革派だけで決めようという動きです。特区ワーキンググループは昨年、労使の事前の契約で条件や手続きを明確にしておけば、これに沿って解雇できるようにする規制改革を目指しました。ところが、厚生労働省が「特定の地域だけ労働者の権利を保障した法律が適用されないのはおかしい。憲法にも抵触するのではないか」として押し返しました。これが、特区諮問会議の意思決定に厚生労働大臣が加わらないとなると、解雇特区のような規制改革まで簡単に決められてしまう恐れがあるのです。特区法が成立する前に、もっと国会議員が声をあげるべきでした。本来自分たちが議論すべき重要問題を諮問会議だけで決めようとしているのですから。
── 国家戦略特区に関する提案を募集した結果、242団体から応募がありましたが、そのうち地方公共団体はわずか61団体で、181団体が民間企業などでした。2013年7月に行った有識者からの「集中ヒアリング」では、モルガン・スタンレーMUFG証券チーフエコノミストのロバート・フェルドマン氏は膨大な規制改革の提案をしています。
佐々木 つまり、国民の代表である国会議員ではなく、外資系証券会社のエコノミストが、労働や医療などわが国の制度を決めようとしているのです。グローバル企業の利益を代表する一部の人々が、「日本国民の代表」の顔をして日本の制度を自分たちに都合よく変えようとしている。
すでに、産業競争力会議では、新浪剛史ローソン社長が、コメの減反廃止を提案していますが、問題なのは、減反といった、国民が様々な観点から議論すべき問題が農業関係者抜きで、現場を知らない人たちだけで進められていることです。また医療の話をするのに医師会を入れないで進めようとしています。実務に精通している当事者を、「利害関係者」、「既得権者」として排除するやり方は、「改革派」の常套手段です。
── 構造改革派こそが利害関係者ではないですか。
佐々木 竹中氏は慶應義塾大学教授という肩書きを使っていますが、彼は人材派遣会社パソナグループの会長です。特区構想には「民間人材ビジネスの活用」が謳われていますが、これは利益誘導と批判されても仕方がない。
しかし、オリックスの宮内義彦氏にはじまり、現在では楽天の三木谷浩史氏など、規制改革で利益を得る企業の代表が公然と規制改革に関わる会議のメンバーに名を連ねるようになってしまい、それが当然のことと受け取られるようになってしまいました。「規制改革で自分の会社も利益を得る、その結果日本経済も良くなる、そのどこが悪いのだ」という開き直りさえ感じます。かつては、企業利益の拡大のために、国会議員に頼んで政策を変えようとしてきました。それがしばしば贈収賄事件を引き起こしたわけですが、いまや構造改革派の面々が議員より上の立場で政策を決めるようになり、贈収賄をしなくても済むようになったとも言えます。〉
(以下略)

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