神道夢想流・杖道

「武」とは「生(ぶ)」である
樫でできた長さ四尺二寸一分(約130センチ)の杖を用いる杖道は、日本古武道の一つとして現在も継承されている。
古武道は、勝敗を競う競技色の強い現代武道に対して、それぞれの流儀のもとで独特の形として継承されてきた武道であり、そこには日本の伝統・文化が色濃く残存している。したがって、古武道は神道をはじめとする宗教と密接な関係がある。
技を究めることは、真理に至る道にほかならない。事実、古武道の一流派、鹿島神流は「初にして体を整え、中にして心気人倫を養い、極めては宇宙創元の理を悟るに至る可し」と謳っている(竹村牧男「古武道の世界」『禅』185号、平成14年1月、64頁)。
日本武道の源流は、鹿島神宮にある。神武天皇によって創建されたという鹿島神宮は、武神、武甕槌神をまつっている。この武甕槌神こそ、天照大御神の甥にあたり、天孫降臨や神武天皇の東征に活躍した神である。
日本武道において、もともと「武」とは、「生(ぶ)」、「生み為す」の意とも解釈され、真理=正義の実践と分かちがたく結びついてきた。それを象徴的に示しているのが、神武不殺という言葉であろう。森島健男氏は、次のように書いている。
「神武不殺と申しまして殺さないばかりでなく、武と言いますのは『む』であり、『産』うむの義であるとして、それでやはり私どもの祖先は生命の根源、生産の働きを成すものとして矛や剣を考えて、それが神聖する宝器として日本民族生成の象徴とされてきました」(森島健男『神の心 剣の心』乃木神社、1998年、13頁)。
さて、大化改新の頃には、鹿島神宮神官の国摩真人が、この神武の本質を世に示した。「攻防一体」の性格が強い鹿島の太刀(祓太刀)に、「虚実一体」の真理を導入し、武術に包容同化の精神を具現させたのである。
一方、『日本書紀』において、武甕槌神とともに出雲国へ降りたとされるのが、経津主神である。この武神をまつるのが香取神宮であり、鹿島神宮とともに日本武道の源流とされる。室町時代の武将、飯篠長威斉家直は、鹿島と香取の両神から正しく授けられた剣術を「天真正伝」と呼び、天真正伝香取神道流を創設した。
16世紀前半頃には、鹿島家筆頭家老であった松本備前守紀政元が、鹿島神宮祝部として神武の顕現に志している。彼によって体系化されたのが、鹿島神流である。さらに、塚原ト伝は、鹿島と香取の双方の武術をまとめて鹿島新当流を創設した。

「丸木をもって水月を知れ」
天真正傳神道流7代、夢想権之助が創始したのが、神道夢想流(当初は真道夢想流)である。権之助は、天真正伝香取神道流だけでなく鹿島神流の「一の太刀」の極意も授かったと伝えられ、慶長年間の頃に江戸へ出て著名な剣客と数多くの試合をした。彼は、一度も敗れたことがなかったが、宮本武蔵と戦いで初めて敗れた。
それ以来、権之助は武者修業をして諸国を遍歴した。数年後、筑前の国(福岡県筑紫郡)に至り、太宰府天満宮神域に連なる、霊峰宝満山に登り、竈門神社に参籠した。
参籠37日目、夢の中に童子が現れ、「丸木をもって水月を知れ」との御神託を授けられたとされている。彼はこの御神託をもとに、工夫を重ね、ついに四尺二寸一分、 径八分の樫の木で、槍、薙刀、大刀の3つ性質を統合した杖術を編み出したのである。神道夢想流の創設である。

 神道夢想流は、神武不殺の精神の復興として注目される。権之助は『神道夢想流秘伝』で、次のように述べている。
「我が国においては剣術のみが武術であるとの考えが主流になっている。
しかし、人を殺さぬことを真理とする杖こそが武術の大本となるべきである。
その昔、天地開闢のとき、イザナギ、イザナミの尊が『天の矛』をもって大海原をかきまぜ、この大八州(日本国)を創られた。
この「天の矛」こそが棒(杖)であり神国日本の武を代表するものである。
日の神である天照大神も三剣を帯し武をたいへん尊ばれた。
五常(仁、義、礼、智、信)の道徳を守ることのみでは国を治めることは出来ない。武も必要であり武をもって国を治めるには、術が必要である。
よって、ここに一本の棒を用いた術を創立し志を持つ人々にこの武術を伝えるものである」(http://www.bekkoame.ne.jp/i/jodo/index.htmlより)

横瀬知行『日本の古武道』より

正義のための武は、日本古武道の特徴といっていい。鹿島神流の竹村牧男は、「もし現実に真の武道を行使するとするなら、自己の側に正義があるかないかが問われる。むしろ正義とは何かが問題となる。相手をも味方となしうるほどの説得力を持った立場というものが追求されなければならない」「武道は、決して相手を倒すためのものではない。むしろいかに相手をあやめずに活かしていくかの道なのである」と書いている。これが、正義の武、聖なる武の精神であろう。神道夢想流・杖道もまた、真理=正義の把握とその実践という、神道が追求する普遍的側面に支えられている。

杖道関連書

 

著者 書名 出版社 出版年 備考
塩川寶祥 神道夢想流杖道 (塩川寶祥の武芸極意書) 気天舎 2012/12
松井健二著、米野光太郎監修 杖道入門―全日本剣道連盟杖道写真解説書 改訂新版 体育とスポーツ出版社 2011/05
松井健二 杖道打太刀入門―古流へのいざないとしての 体育とスポーツ出版社 2011/05
松井健二、米野光太郎 杖道入門―全日本剣道連盟杖道写真解説書 改訂版 体育とスポーツ出版社 2004年
米野光太郎、広井常次 杖道 愛隆堂 2004年
中村民雄編 居合・杖道 復刻版 本の友社 2003年 近代剣道書選集 / 中村民雄編 ; 第10巻
松井 健二 杖道入門―全日本剣道連盟杖道写真解説書 第二版 体育とスポーツ出版社 2001年
藤田西湖 神道夢想流 杖術 図解 名著刊行会 2000年
全日本剣道連盟編 全日本剣道連盟杖道 (解説) 全日本剣道連盟 1999年
全日本剣道連盟編 全日本剣道連盟高段者名簿 : 七段以上 : 剣道・居合道・杖道 平成10年版 全日本剣道連盟 1998年
佐江衆一 捨剣―夢想権之助 新潮社 1995年 新潮文庫
松井健二編著 天真正伝神道夢想流杖術 壮神社 1994年
西岡常夫 杖道自戒 : 武道試論 島津書房 1989年
北川晃二 武蔵に勝った男 : 杖道流祖夢想権之助 武道学園純正館 1988年
杉崎寛 杖で天下を取った男 あの人この人社 1988年
清水隆次 杖道教範 : 基本錬技解説 復刻新版 純正館年 1988年
清杖会編 清水隆次克泰先生を想う : 神道夢想流杖道師範 清杖会 1984年
鶴山晃瑞 護身杖道 : 図解コーチ 成美堂出版 1984年
神之田常盛 神道夢想流杖道 : 杖道入門 日本杖道会出版部 1984年
極意守成の道 講談社 1983年 日本の武道 ; 11
米野光太郎、廣井常次 杖道教典 愛隆堂 1982年
浜地光一 神道夢想流杖とその伝承 神道夢想流杖とその伝承刊行会 1981年
中嶋浅吉、神之田常盛共著 神道夢想流杖道教範 日貿出版社 1976年
錬武館事務局編 杖道教範 錬武館 1967年
清水隆次 杖道教範 : 基本錬技解説 大日本杖道会本部 1940年

 

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