安倍首相は戦後レジームからの脱却を断念?─対米自立派と対米追従派の分岐

「日本が戦後レジームから脱却することをアメリカは許さない」というメッセージが、再び強く発信されようとしているのか。「強い日本」を望む勢力がアメリカにも存在するのだと淡い期待を抱くことは、もはや無理だということなのか。
安倍政権は、アメリカとの摩擦を覚悟した上で、戦後レジームからの脱却に突き進むのか、アメリカとの摩擦を避けて戦後体制の継続に甘んじるのか。
平成25年末の安倍首相の靖国参拝に対して、アメリカは「失望」したと表明したが、CSISパシフィック・フォーラム事務局長のブラッド・グロサーマン氏の発言は、正面から安倍政権の姿勢にNOを突き付けたものだ。
『東洋経済オンライン』(2014年1月28日)に載ったインタビューの中で、グロサーマン氏は次のように語っている。
「安倍首相は東京裁判(極東国際軍事裁判)判決や憲法など、戦後秩序の見直しに狙いを定めている。米国はその裁判に多大の責任を負い、憲法にも特大の役割を担ってきた。そのため安倍首相の挑戦は日米関係を政治化させることになる。それは日米関係および安全保障同盟のあり方についての議論にも変換を迫るものだ。明らかに米国を安倍首相の議論とは反対の立場に立たせることになる。
安倍首相の立論は、その根底において、戦後レジームの合法性について問題を提起している。安倍首相や閣僚、さらに彼の政治的支持者たちは、日本における戦後レジームの妥当性をどの程度まで信じているのか。
日本の人々がそういう疑問を呈するのは結構だが、それは国論を統一するというよりも、分裂させる可能性があるということを理解しておくべきだ。その議論に米国が引き込まれる度合いにもよるが、日米関係は非常に混乱することになる」
こうしたシグナルに直面した安倍政権は、戦後レジームからの脱却を断念するのか。
すでに、安倍首相を支持してきた保守層が、東京都知事選で、安倍首相が推す舛添要一氏に挑む田母神俊雄氏を熱烈に支持し、「戦後レジームからの脱却が東京から始まる!」と叫んでいる。
いずれにせよ、安倍首相の靖国参拝以来のアメリカの対日シグナルは、対米追従派と対米自立派の分極化を早めることになるだろう。

「この都知事選挙の真の争点は戦略特区だと思います」「神州の泉」より

国家戦略特区に関して、「神州の泉」に掲載されたポッキー氏のコメントの一部を以下転載させていただきます。
〈私には小泉と安倍が対立しているようには見えません。
小泉の登場は争点を原発推進か反原発にすることだと思います。
しかし、この都知事選挙の真の争点は戦略特区だと思います。
すなわち、反原発票が宇都宮一択に流れるのを防ぐために、細川を担いだのではないかとみます。
舛添に入れようが、細川に入れようが、どちらも戦略特区を活用して構造改革路線であり、現安倍政権の新自由主義で規制緩和のグローバル化路線を強力に後押しするものです〉

安倍政権は、自主核武装の選択肢を放棄するのか


 アメリカが日本政府に対し、冷戦時代にアメリカなどが研究用として日本に提供した核物質プルトニウムの返還を求めていることが、共同通信の報道で1月26日に判明した。このプルトニウムは茨城県東海村の高速炉臨界実験装置(FCA)で使う核燃料用の約300キロ。
 すでに2013年5月に原子力規制委員会が、兵器級プルトニウムを生産できる高速増殖炉「もんじゅ」の使用停止命令を出していたが、2014年1月15日に同事務局は保守管理体制をさらに厳しく監視する必要があるとの報告書を規制委の定例会合に提出し、了承された。
 一方、1月8日にはアメリカのシンクタンク「核脅威削減評議会(NTI)」は、日本が過去4年間、イギリス、インド、パキスタンと並びプルトニウム保有量を増加させていると懸念を表明していた。
 安倍政権は、もんじゅを放棄し、このアメリカの要求に屈し、自主核武装の選択肢を放棄するのか。
 以下、2009年8月に書いた「アメリカは『もんじゅ』再稼働に沈黙を保つのか? 明日のアジア望見 第78回」(『月刊マレーシア』505号、2009年8月30日)を転載する。

 JR敦賀駅から車で約四十分。日本海に突き出た敦賀半島の北端に、日本原子力研究開発機構の高速増殖炉「もんじゅ」はある。平成七年に起きたナトリウム漏れ事故で運転を停止していたが、再稼働に向けた準備が着々と進んでいる。
 「もんじゅ」は、発電しながら自ら燃料を生み出す「究極の原発」といわれる。原発の燃料となるウランのうち、燃えるウランは〇・七%に過ぎないが、「もんじゅ」は残りの燃えないウランを、燃えるプルトニウムに変えて燃料にできる。 続きを読む 安倍政権は、自主核武装の選択肢を放棄するのか

頭山満─維新・興亜陣営最大のカリスマ

南洲の魂を追い求めて─終生の愛読書『洗心洞箚記』

大正十年秋、後に五・一五事件に連座する本間憲一郎は、(とう)(やま)(みつる)のお伴をして、水戸の那珂川で鮭漁を楽しんでいた。船頭が一尾でも多く獲ろうと、焦りはじめたときである。川の中流で船が橋に激突、その衝撃で船は大きく揺れ、船中の人は皆横倒しになった。そのとき、頭山は冬外套を着て、両手をふところに入れていた。
「頭山先生が危ない!」
本間は咄嗟に頭山の身を案じた。川の流れは深くて速い。転覆すれば命にかかわる。
ところが、本間が頭山を見ると、頭から水飛沫を被ったにもかかわらず、ふところに手を入れたまま、眉毛一つ動かさず悠然としている。驚きもせず、慌てもせず、いつもの温顔を漂わせていたのである。「これが無心ということなのか」。
この体験を本間は振り返り、頭山が大塩平八郎の心境に到達していたものと信じていると書き残している。大塩は天保三(一八三二)年、中江藤樹の墓参の帰り、琵琶湖で暴風に遭い、転覆の危機に直面した。このときの教訓を大塩は、その講義ノート『洗心洞箚記』に記している。 続きを読む 頭山満─維新・興亜陣営最大のカリスマ

佐藤文雄と維新派言論機関『大気新聞』

 松村介石、満川亀太郎、大川周明らの思想的影響を受けて、独自の興亜・維新運動を展開した佐藤文雄は、大正15年4月に宮城の気仙沼で大気社を創設、『大気新聞』を発刊した。言論機関としての高い志は、創刊号の次の一文に示されている。
「現代文明社会に於て社会教育機関として又報道機関として新聞紙の必要なることは吾人の今更論ずるまでもない所である。然しながら現今公にせられてゐる新聞を見るに其の何れもが新聞本来の目的から遠ざかり徒らに一方に偏し情実にとらはれ、営利のみ目的とし公明を失してゐる、殊に地方に横行する新聞の如きに至っては其の低劣なるに吾人の等しく遺憾とする所である、かかる現状を黙視するに忍びず決然として起ち……真の文明なる理想の社会建設の為に全力を傾注するのは吾が同人の大気新聞である」
「大気」と命名した理由を、佐藤は次のように説明している。
藤田東湖先生の正気歌の劈頭に『天地正大気、粋然として神州にあつまり秀ては不二岳となり巍々として千秋に聳え』云々とあるが、此の気ありてこそ日本は常に最高の善に向ひ創造されつつあるのである。……天下に峻徳を明らかにし、人類を一様に慈み養ふの象徴は、我が地球を普く包む大気に於て明かに現され、所謂吾人は此の大気の潤徳により生を続け、然かも日に日に新らたなる己を造りゆく事が出来るのである。日に新らたなる己を造るということは新日本を創造するの所以である。即ち此の理想的新日本建設の第一歩として地方人の英気を養ひ地方文化の向上と産業発達のために、敬愛する我が同郷の各位と一致協力、大気仙沼建設のため一大貢献をなさんとするものである。これ我が同人が『大気』の名を選び、世のあらゆる不義非道に対して宣戦を布告するの覚悟、即ち筆を投ずるの覚悟を以て新聞を発刊した所以である」

『大気新聞』は綱領として、
一、宗教的生活の実現 一、精神生活に於ける自由の実現 一、政治生活に於ける平等の実現 一、経済生活に於ける友愛の実現 一、地方文化発達の実現 一、産業交通政策の確立──を掲げ、次のように宣言した。
〈「大気新聞」は筆を投ずるの覚悟を以て刊行するものであります。筆を投ずるの覚悟とは即ちあらゆる世の不義非道に対する宣戦を布告するの覚悟であります。平等を欠ける現在の政治は特権階級擁護の政治であります。友愛の精神なき経済生活は幾多同胞を死滅せしめんとして居ります。更らに精神生活に自由を失へる日本国民は真実の意味に於ける奴隷であります。日本は今や国民的にも国際的にも奴隷解放の陣頭に起つ秋が来たのであります。日本は何時までも同じ日本ではありません。日本は現に造られつつある国であります、即ち最高の善に向って突進する国でなければなりません、国家は国民の魂を基礎とし且つ国民の魂を以て組立てられた家であります。故に日本を創造しつつある者は吾人お互の魂なのであります。孔子は三千年の昔に於て「明徳を天下に明にせんと欲する者は先づ其国を治め共国を治めんと欲する者は先づ其家を斉ふ其家を斉へんと欲する者は先づ其身を修む」と説示して居るではありませんか。所謂吾人其者を救ふは日本国家其者を解放するの所以でなければなりません、日本国家の解放は、やがて大亜細亜の解放であります。大亜細亜の解放は、やがて人類の解放であります。即ち我が日本は人類解放戦の大使徒たることを信じなければなりません。吾人「大気新聞」同人は其力小なりと雖も以上の理想実現のため渾身の努力を続けんとするものであります。即ち其第一歩としてお互国家中心勢力たる地方人の天地正大の気を養ひ地方文化の向上と産業交通発達のため一大貢献をなさんとするものであります〉

G15(途上国15カ国グループ)

グローバル企業支配に抗するG15とは何か?
ISDS(Investor-State Dispute Settlement、投資家対国家の紛争解決)に象徴すれるように、国家に対するグローバル企業の優越という流れが強まりつつある。
こうした中で、先進国支配に抗し、南北格差の是正に取り組んできたのが、G15(途上国15カ国グループ)である。

G15とは、G8の途上国版ともいいうる会議で、非同盟諸国会議に属する主要途上国による定期会議のことである。1990年6月にマハティール首相(当時)の提唱で第1回会議が開催された。途上国の発展のための経済グループとしては、G77があるが、その結集による力は軽視できないものの、参加国が多過ぎ、小回りがきかないという欠点も指摘されてきた。その点、G15では、突っ込んだ議論が可能で、緊急の問題について討議できるなどの機動性がある。
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新国際経済秩序(NIEO)

グローバル企業による世界支配の動きが強まっている。TPPや国家戦略特区もその手段である。
いまこそ、各国の主権、伝統文化の維持という視点から、あるべき国際経済秩序を考えるときではないか。その際極めて示唆に富むのが、新国際経済秩序(NIEO) である。もともとNIEOは、先進国とグローバル企業の横暴に憤った途上国が結束を強め、国際経済システムの変革を求めてまとめた考え方。
1974年4月、「資源と開発に関する国連特別総会」(第6回特別総会)が開催され、「新国際経済秩序樹立に関する宣言」(Declaration on the Establishment of a New International Economic Order)と行動計画が採択された。

「新国際経済秩序樹立に関する宣言」
1、諸国家の主権の平等、全人民の自決、力による領土獲得の不承認、領土の不可分および他国の内政不干渉
2、公平を基礎とする国際共同体の全構成国の広範な協力
3、全国家が共通の関心を持っている世界的な経済問題を解決するにあたって、全国家間の平等の基礎の上に立った完全かつ効果的な参加 続きを読む 新国際経済秩序(NIEO)

佐々木実氏「国家戦略特区は『1%が99%を支配するための政治装置』だ」

『日刊ゲンダイ』(2014年1月21日付)「構造改革派が支配 竹中平蔵が牛耳る『国家戦略特区』の実態」に、佐々木実氏のコメントが載っている。以下、『月刊日本』2月号に掲載された佐々木氏インタビュー記事の一部を転載する。

〈いよいよ今年から国家戦略特区が動き出します。『市場と権力』(講談社)で竹中平蔵氏の実像に迫ったは、特区法の成立と特区諮問会議の設置によって構造改革派が政策決定を牛耳る仕組みができあがってしまったと警鐘を鳴らしています。特区の危険性について、佐々木氏に聞きました。

竹中平蔵氏の復活が意味するもの
── 国家戦略特区諮問会議の民間議員に竹中平蔵氏が就任しました。
佐々木 特区を実質的に主導してきたのが竹中氏であることは明白です。特区構想は、2013年5月10日に開催された「第1回国家戦略特区ワーキンググループ」から本格的に動き始めましたが、その1カ月ほど前の4月17日の産業競争力会議で、竹中氏が「立地競争力の強化に向けて」と題するペーパーを用意しました。そこには、「経済成長に直結する『アベノミクス戦略特区』(仮称)の推進」が打ち出されていたのです。
新藤義孝・地域活性化担当大臣が5月10日の会合のために用意した「世界で一番ビジネスのしやすい環境をつくる」というペーパーは、まさに竹中氏の主張に基づくものだったのです。新藤氏は、これまでとは次元の違う特区を創設し、総理主導の下、強力な実行体制を構築すると明記し、総理を長とし、民間有識者が参画する諮問会議の設置などを提案したのです。しかも、新藤氏が用意した資料には、参考として竹中氏の「アベノミクス戦略特区」構想がわざわざ添付されていたのです。 続きを読む 佐々木実氏「国家戦略特区は『1%が99%を支配するための政治装置』だ」