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忘却された経済学─皇道経済論は資本主義を超克できるか はじめに

はじめに
平成二十二年のクリスマスの日、漫画「タイガーマスク」の主人公の名義で、群馬県の児童相談所にランドセルが届けられた。これをきっかけに、全国で続々と施設などへランドセルや文房具などを贈る人々が現れた。この間、鳥取県琴浦町では大晦日から降り続いた雪によって、車千台が国道九号線に立ち往生した。このとき、付近の住民たちは「トイレ」という看板を作って家のトイレを開放したり、ありったけの米を炊き、おにぎりを作って配って回ったりしたという。
小泉政権時代に強まった新自由主義路線により、わが国の共同体は破壊され、互いに助け合って生きていくというわが国の美風が失われたと批判されてきたことを考えると、こうしたニュースはせめてもの救いと感じられる。
新自由主義路線は一旦頓挫したかに見えたが、いま環太平洋パートナーシップ協定(TPP)をめぐって、再び息を吹き返そうとしている。TPPは、決して第一次産業に限定された問題ではなく、アメリカの「年次改革要望書」による規制緩和要求と同様に、国民生活に直結する制度変更の危険性を孕んでいる。市場の拡大、経済効率、国際基準を旗印にして、再び規制緩和が叫ばれようとしている。しかし、こうした動きに対する警戒感が強まらないのは、わが国本来の経済観自体が過去の遺物として見失われているからではなかろうか。皇道経済論の発想を理解することは、わが国本来の経済観を再認識する契機となるだろう。
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